本年度は、日本国内の超長基線電波干渉系網(VLBI)であるVERAを用いて、銀河系中心領域の水メーザー天体の位置天文観測を行い、年周視差の計測を行った。また、銀河系中心方向の位置天文観測における問題点を解決することを目的とした新たな観測手法を用いて観測を行い、観測結果の精度評価を実施し、十分な精度で年周視差と固有運動の測定が可能であることを示した。 (1)銀河系中心方向の非常に明るい電波天体であるSgr D領域に付随する水メーザー源に対して、年周視差の測定に成功し、この天体が銀河系中心領域よりも手前側に位置する円盤部の渦状腕に位置することを明らかにした。この結果は査読論文として出版された。 (2)銀河系中心部で非常に活発な星形成が行なわれているSgr B2領域に付随する水メーザー源について、年周視差と固有運動の測定に成功した。また、世界で初めてSgr B2領域に付随する水メーザーの詳細な分布と内部運動を測定することに成功した。 (3)より暗いメーザー源に対して位置天文観測を可能にする新位相補償手法を開発した。年周視差が既知なW3OH領域の水メーザー源に対して位置天文観測を実行することで新手法の精度評価を行い、銀河系中心領域の天体について適用するのに十分な精度が得られることを確認した。また、実際にこの手法を銀河系中心方向の天体に適用して観測を行い、従来の手法では検出できないような暗いメーザー源に対して、年周視差・固有運動を測定することに成功した。
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