重力場における量子論は、統一理論の構築のみならず、宇宙の起源や星の重力崩壊の解明においても極めて重要な役割を担うと考えられている。前年度までは、基礎的な問題として、曲がった時空での場の量子論の解明のために、Unruh効果という加速度系における粒子生成の理論的研究を行ない、その検証可能性まで議論を行ってきた。当該年度においては、強重力場における量子論の検証可能性に対して、重力波の観点からアプローチした。近年検出されたブラックホール連星合体からの重力波によって、量子重力の性質を知ることができるかを理論的に調べたのである。ブラックホール連星合体からの重力波の中でも、特にリングダウン重力波という「ブラックホール合体の十分後に緩和過程として現れる重力波」に注目した。そのリングダウン重力波には、ブラックホールの質量、角運動量とブラックホール地平面付近の境界条件だけで決まる固有振動数のみが含まれている。したがって、もし量子論的な効果で境界条件が修正を受けている場合、ブラックホールの固有振動数、つまりリングダウン重力波に影響が及んでいる可能性があるため、このリングダウン重力波の精細な観測には重要な意義がある。量子重力が効いてくるエネルギースケールで重力波の分散関係がずれている場合に、それがブラックホール合体からの重力波に無視できない規模で影響を及ぼすことを明らかにした。今後、重力波観測は益々精度を上げていくことが期待される。それとともに天体物理だけでなく、ブラックホールの量子論的な性質にも迫れる可能性を示唆したという意味で、本研究は極めて意義深いものである。
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