研究課題/領域番号 |
16J01799
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
大橋 美和 名古屋大学, 生命農学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | イネ / 分げつ / 逆遺伝学 / グルタミン合成酵素 / 植物ホルモン / トランスオミクス / 腋芽 / 窒素代謝 |
研究実績の概要 |
イネの分げつ数はコメの収量を規定する一因である。本研究では、腋芽の伸長抑制により分げつ数が減少する、サイトゾル型グルタミン合成酵素1;2欠損変異体(gs1;2)を用いた逆遺伝学的解析により、分げつ発達と窒素代謝の関連性及びその分子統御機構の解明を目指している。 まず、トランスオミクス解析により、gs1;2幼植物地上部基部での転写・代謝産物及び植物ホルモンの変動を網羅的に解析した。結果、GS1;2欠損が、代謝を大きく変化させ、また、腋芽の発達を促進する植物ホルモンであるサイトカイニンの前駆体型[N6-(Δ2-isopentenyl)adenine riboside (iPR), trans-zeatin riboside (tZR), tZR 5’-phosphate (tZRP)]量を減少させることを明らかにした。 昨年度までの研究により、GS1;2欠損によるグルタミン量またはその代謝産物量の減少を介したサイトカインの新規合成低下が、腋芽の伸長抑制の一因であることを明らかにした。この成果は、Plant and Cell Physiology誌で公表した。 今年度は、gs1;2地上部基部のアスパラギン量の減少にとくに着目して解析した。アスパラギンは、グルタミンと同様に、主要な窒素の転流形態である。アスパラギンは、グルタミンを基質として、主にアスパラギン合成酵素(AS)によって生合成される。gs1;2地上部基部では、腋芽への代謝産物の転流に寄与する節網維管束の篩部伴細胞におけるAS1の発現量が顕著に減少した。グルタミン供給に応答してAS1の発現量が増加したことから、gs1;2地上部基部では、グルタミン量の減少を介して、AS1の発現低下とアスパラギン量の減少が起きていることが示唆された。今後は、AS1欠損変異体を用いて、AS1およびアスパラギンの分げつ発達への関与を解析していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、腋芽の伸長抑制により分げつ数が減少する変異体イネ(サイトゾル型グルタミン合成酵素1;2欠損変異体)を用いた逆遺伝学的解析により、イネの分げつ発達を制御する2つの内的要因(植物ホルモンと代謝産物の利用効率)に対する窒素代謝の関連性と分子統御機構の解明を目指している。昨年度までの研究により、申請時に立てた研究仮説「GS1;2欠損変異体イネの腋芽伸長抑制へのサイトカイニンの関与」を実証することができた。そして、今年度、この成果は国際学術誌Plant and Cell Physiologyで出版された。 さらに今年度は、イネの分げつ発達を制御する内的要因である代謝産物の利用効率の側面から新たに解析を始めた。 以上のことから、本年度は、当初の計画以上に研究を進展させることができたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、腋芽の伸長抑制により分げつ数が減少する変異体イネ(サイトゾル型グルタミン合成酵素1;2欠損変異体)を用いた逆遺伝学的解析により、イネの分げつ発達を制御する2つの内的要因(植物ホルモンと代謝産物の利用効率)に対する窒素代謝の関連性と分子統御機構の解明を目指している。昨年度の研究により、GS1;2欠損によるグルタミン量またはその代謝産物量の減少によるサイトカイニンの新規合成の低下が、腋芽の伸長抑制の一因であると明らかにした。しかし、サイトカイニンだけではGS1;2欠損変異体イネの腋芽伸長抑制が説明しきれないことから、他の要因の関与が示唆された。 そこで今後は、トランスオミクス解析によって、GS1;2欠損変異体イネの腋芽伸長抑制に関与すると予想された因子に着目して、解析を行う。具体的には、GS1;2欠損変異体イネ地上部基部において、転流窒素の輸送形態であるアスパラギン量の減少が明らかになっていることから、GS1;2欠損によって、アスパラギンが減少する分子機構を明らかにし、それら代謝産物の変化とGS1;2欠損変異体イネの腋芽伸長抑制の関連性の解析を行う。
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