研究実績の概要 |
コチレニンAは優れた抗がん活性を示し、新規抗がん剤のリード化合物として期待されている。標的タンパク質の同定および新規抗がん剤開発研究に向け、コチレニンAの供給が望まれるが、生産菌の変異によりコチレニンAの入手は困難である。そこで本研究では、未だ達成されていないコチレニンAの化学全合成による供給を目指した。コチレニンAの量的供給および生化学研究に向けた類縁体合成を可能とする、A環部セグメントとC環部セグメントを連結した後、環化によって中央のB環部八員環を構築する、収束的な合成ルートを立案した。 まず、A環部セグメントであるトランスオレフィンを有するビニルスズを17工程で合成した。一方、8工程でC環部セグメントであるビニルトリフラートを得た。これらA,C環部セグメントのスティーレカップリングは、ホスフィン配位子を有するPd触媒では全く進行しなかったが、NHC配位子を有するPd触媒を用いる条件により、良好な収率で目的とするカップリング体を与えた。しかし、続くジヒドロキシ化の立体および位置選択性は全く発現しなかった。そこで、オレフィンのジヒドロキシ化に先立って八員環を構築すべく、A環部セグメントとしてシスオレフィンを有するビニルスズを用いることとした。。 シス体のビニルスズを合成し、C環部セグメントとスティーレカップリングで連結した。続いて、分子内マクマリーカップリングによる八員環形成を試みたが、目的とする環化は進行しなかった。望む反応が進行しないのはC環部の立体障害が原因と考え、より立体的な影響を受けにくいラジカル環化を検討することとした。A,C環部のカップリングで得られる中間体に対しアルキンとチオカルボニルイミダゾールを導入し、環化前駆体の合成を完了した。今後、この基質を用いるラジカル環化を検討し、コチレニンAが有するB環部八員環を構築する予定である。
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