研究課題
血中や脳内での細胞外脂質輸送を担うアポリポタンパク質群は、動的で柔軟な構造ゆえに変異や酸化修飾などによってアミロイド化しやすいことが知られている。なかでもHDLの主要構成タンパク質であるアポリポタンパク質A-I(アポA-I)は、その遺伝子変異がHDL代謝異常や全身性アミロイドーシスなどの重篤な疾患を引き起こす。本研究では、アポA-Iアミロイドーシスの発症分子機序について、末梢の炎症部位環境がアポA-Iアミロイド線維の組織沈着・毒性発現を促進しているとの知見に基づき、生体膜脂質・糖鎖などの細胞外マトリックスや酸性環境・酸化ストレスなどの生体環境因子によるアミロイド線維形成機構を、物理化学的・細胞生物学的解析から明らかにすることを目的とする。平成28年度は、特に生体膜脂質・糖鎖などの細胞外マトリックス中でのアミロイド線維形成機構の解析に注力した。具体的な成果として、酸性リン脂質であるホスファチジルセリンの存在下においてはアポA-Iの線維形成が抑制されるが、コレステロールの存在下においては逆に促進されることを見出し、脂質組成の違いがアポA-Iと脂質膜との相互作用様式に影響を与えることでアミロイド線維形成性の違いをもたらすことを明らかにした。また、糖鎖環境下におけるアポA-Iアミロイド線維形成機構に関して、糖鎖とアポA-Iとの相互作用に重要な領域を特定し、さらにその領域におけるアミロイドーシス変異の重要性を明らかにした。これらの成果は、生体内でのアポA-Iによるアミロイド線維形成の分子機構解明、さらに全身性アミロイドーシスの新たな予防・治療法の開発につながることが期待される。
2: おおむね順調に進展している
予定通りCys置換変異体の設計・作製を進め、すでに数種の変異体を作製し、チオール基特異的に標識した環境感受性蛍光プローブによるアポA-Iアミロイド線維の分子会合構造の評価に取り掛かっている。今後はさらにCys置換変異体数を増やし、より局所的な構造評価を行う予定である。また、脂質環境におけるアポA-I 1-83フラグメントの線維形成性について、脂質組成の違いがアポA-Iと脂質膜との相互作用様式に影響を与えることでアミロイド線維形成性の違いをもたらすことを明らかにした。
継続して大腸菌培養・タンパク質発現および遺伝子変異導入用試薬を用い、アポA-Iアミロイド形成領域として知られるN末側1-83フラグメント中の様々な部位にシステイン(Cys)残基を導入したCys置換変異体の設計・作製を行う。作製した各変異体をチオール基特異的な環境感受性蛍光プローブで標識し、アポA-Iアミロイド線維の分子会合構造を評価する。また、抗体作製用試薬を用いて新規アミロイド抗体の設計・開発(神戸薬科大学との共同研究)を行い、疾患組織部位でのアミロイド線維高感度検出法や線維形成阻害・制御技術の開発を目指す。
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