平成29年度は研究計画におおむね沿って、史資料の収集、論文の執筆および公刊、研究会での報告をそれぞれ行った。 第一に、本年度はイギリスとアメリカで史料収集を行った。ロンドン近郊のイギリス国立公文書館では、1920年代後半のイギリスの対外政策決定過程における財政的制約を評価するのに必要な大蔵省文書ならびに主要大蔵官僚の個人文書を調査した。ワシントンDC近郊のアメリカ国立公文書館(Archives II)では28年8月に調印されたパリ不戦条約に関する国務省文書を収集した。その結果、戦争放棄に関する多国間枠組みについて、イギリスのみならず第一次大戦後の新興大国アメリカの果たした役割を分析することが可能となった。 第二に、本研究課題の最終成果として、博士学位論文「イギリスの対独『宥和』、1924-1930年 ドイツをめぐるヨーロッパ国際秩序の再編」を慶應義塾大学に提出した。同論文はイギリスが20年代後半に展開したヴェルサイユ条約をめぐる対ドイツ政策の形成および対外交渉過程を実証的に分析し、第一次世界大戦後におけるヨーロッパ国際秩序の安定化にイギリスが果たした役割を検討するものである。20年代後半のイギリス政府内で対ドイツ政策に携わった人々の対外認識を膨大な量の一次史料から析出することで、イギリスがヨーロッパの相対的安定期に対独「宥和」、すなわちドイツの要求に沿ったヴェルサイユ条約の修正を選択した論理を解明した。 第三に、以上の作業と並行して、研究成果を口頭報告する機会も得た。神戸で開催された日本国際政治学会研究大会では「パリ不戦条約の成立とイギリス外交」を、渡邉昭夫先生が主宰されている八王子サロンでは博論の概要をそれぞれ報告した。
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