研究課題/領域番号 |
16J01870
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
池田 裕美 九州大学, 生物資源環境科学府, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | 多動性 / L-セリン / D-セリン / セリンラセマーゼ / エネルギー代謝 / 基質 / ジャンガリアンハムスター / ロボロフスキーハムスター |
研究実績の概要 |
ジャンガリアンハムスター(以下、ジャンガリアン)とロボロフスキーハムスター(以下、ロボロフスキー)は同じヒメキヌゲネズミ属であり、ジャンガリアンは大人しく、ロボロフスキーは多動性を示す。対照的な行動を示す詳細なメカニズムについては未解明なままである。本研究では、行動量の差異に関するメカニズムの解明を目指し、最終的に栄養学的アプローチによる多動性の緩和を目指し研究を行っている。これにより子供特有の精神疾患である注意欠陥・多動性障害への栄養学的治療法への応用も期待される。 これまでの研究により、両ハムスターの脳内L-セリンならびにD-セリン含量に差異がみられ鎮静作用を有するL-セリンが両ハムスターの行動量の差異を生じさせているのではないかと仮説を立て、当該年度は主にセリン代謝関連酵素に着目し、検討を行った。L-セリンはセリンラセマーゼと呼ばれる酵素によりD-セリンへと変換される。両ハムスターのL-ならびにD-セリン含量の差異が、この酵素によるものか否かについて検討を行うために、in situ hybridization法を用いてセリンラセマーゼの発現量および発現分布について分析を行った。分析の為の技術の習得および条件検討を行い、本試験を行った。現在は得られた結果の解析を進めている。並行して、両ハムスターの行動およびエネルギー代謝の差異に関する検討も行った。ロボロフスキーは活動期である暗期において有意に高い酸素消費量が認められ、その消費にはリズムが存在することや、暗期開始数時間前からエネルギーの基質を脂質に切り替えることが判明した。また、ジャンガリアンは飢餓状態に陥った際に睡眠に、ロボロフスキーでは移動に時間を費やすという種特異的な性質を示した。これらの新たな知見は、ロボロフスキーの多動性のメカニズム解明の手がかりとなることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
両ハムスターのL-ならびにD-セリン含量の差異が、セリンラセマーゼの発現の違いにより引き起こされているのか否かについて検討を行うために、in situ hybridization法を用いてセリンラセマーゼの発現量および発現分布について分析を行った。現在得られた結果について解析中である。当該年度は技術習得および条件検討に集中したため、当該年度中に行う予定であった他のセリン代謝関連酵素であるPhgdhの分析については次年度に予定している。さらに、並行して行った両ハムスターの行動量およびエネルギー代謝の差異に関する試験により、両ハムスターそれぞれの性質やエネルギー利用の基質についての詳細に関して新たな知見を得られた。これらの知見は、ロボロフスキーの多動性のメカニズム解明の手がかりとなることが期待される上、この成果を発表した日本畜産学会第122回大会において優秀発表賞を受賞するに至った。 上述の試験とは別に、両ハムスターの行動量および学習能力を脳内アミノ酸ならびにモノアミン含量で検討した研究成果をまとめた投稿論文がAnimal Science Journalに採用初年度の4月に受理され、2017年3月に掲載された。両ハムスターのストレス感受性および行動量の差異との関連性についての試験に関して、採用初年度中の7月にペット栄養学会第18回大会にて口頭発表を行った。さらに8月に開催された17th AAAP Animal Science Congressにおいても口頭発表を行った。この成果を学術論文としてまとめJournal of Pet Animal Nutritionの2017年4月号に掲載された。 以上より、新たな知見を得られたとともに、得られた成果をまとめ発信していくことに関しても順調に進んでいることから、おおむね順調に進展しているとの考えに至った。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、セリン代謝に関連する他の酵素であるPhgdhの発現量ならびに脳内分布をin situ hybridization法を用いて分析するとともに、血漿中グルコース濃度についても検討を行う予定である。さらに、ロボロフスキーにおいて繁殖を行い、妊娠期および授乳期にセリンを投与する群、授乳期からセリン投与に切り替える群、妊娠期にセリン投与し授乳期で通常食に切り替える群および妊娠期授乳期ともに投与しない群に分け、仔の多動性が改善されるか否かについて検討を行う。現在ロボロフスキーを交配可能な期間まで馴化を続けており、本試験を4月下旬から開始する予定である。
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