私は一重項酸素消光でラジカル上に生じる動的スピン分極を利用した新規の一重項酸素濃度の定量法の開発を目指した.1年目である本年度はラジカルの一重項酸素消光で生じる動的スピン分極の大きさを様々なラジカルについて定量した.その結果,動的スピン分極の大きさと一重項酸素の消光速度定数の間に,負の相関があることが分かった.この負の相関について,ラジカルによる一重項酸素消光メカニズムと動的スピン分極発生理論に基づいて議論した.消光速度定数が大きく一重項酸素のラジカルによる消光が遠距離で起こるラジカルでは発生する動的スピン分極が小さく,消光速度定数が小さくラジカルと一重項酸素が十分に近づいた際に消光が起こるラジカルでは動的スピン分極が大きくなると結論した.このような消光メカニズムや動的スピン分極発生機構を明確にすることは,発生した動的スピン分極を利用した検出法の開発において重要である. 発生する動的スピン分極によるEPR信号増強の有用性を示すため,光重合反応初期過程の計測に挑んだ.光分解で生じたラジカルでは動的スピン分極により EPR信号が増強され,短寿命種のEPRによる直接的な観測が容易になる.ラジカルのモノマーへの付加反応機構の解明や,速度定数の測定を行った.また,測定した反応速度定数を量子化学計算によって見積もったエネルギーより議論した.様々なラジカル - モノマーの組み合わせで反応速度定数をラジカルを直接観測しながら測定できたことは,動的スピン分極による測定の利点である.この研究により動的スピン分極を利用したEPR測定の有用性を示した. 上記の研究内容については国内外の学会で計7件の発表がある.また,分子科学会優秀ポスター賞(第10回分子科学討論会)など計3件の受賞がある.また,英文論文誌Molecular Physicsに論文が掲載された.
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