温和な条件下での触媒的な窒素固定反応は省エネルギー型の窒素固定法として開発が期待されているが、報告例が限られている。所属研究室では最近、PNP型ピンサー配位子を有するモリブデントリヨード錯体を触媒として用い、常温・常圧の窒素ガスとプロトン源、還元剤とを反応させることで、触媒のモリブデン原子あたり415当量のアンモニアが得られることを見出した。本反応は、鍵中間体として窒素架橋二核モリブデン錯体を経由すると想定している。この中間体の生成および窒素ー窒素三重結合の切断反応を促進させることで触媒活性が向上すると考え、2つのPNP配位子のピリジン環の4位どうしを連結することが効果的であると考えた。そこで、2018年度はm-ターフェニレンおよびm-テトラフェニレン鎖で2つのPNP配位子を連結した配位子およびこの配位子を有するモリブデン錯体を新規に設計し、その錯体を用いた触媒的アンモニア合成を検討した。 新規に合成したm-ターフェニレン鎖およびm-テトラフェニレン鎖で連結したPNP配位子と[MoI3(thf)3]をTHF中50度で反応させることで、対応する配位子を持つ二核モリブデンヨード錯体の合成に成功した。これらの錯体を触媒として用い、常温・常圧の窒素ガスとプロトン源、還元剤とを反応させたところ、PNP配位子同士を連結していない錯体と同程度の高収率でアンモニアが得られた。DFT計算により、2つのPNP配位子を連結した配位子を持つ窒素架橋二核モリブデン錯体の窒素ー窒素三重結合切断反応の活性化エネルギーは、PNP配位子どうしを連結していない錯体よりもわずかに低いことが明らかとなった。以上のように、2018年度は適切な配位子設計により効率的なアンモニア生成を実現することに成功した。
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