研究課題/領域番号 |
16J01893
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
円城寺 秀平 山口大学, 連合獣医学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | 胃癌 / SET / PP2A |
研究実績の概要 |
胃癌は、未だに世界のがんによる死亡者数の第3位であり、日本でも多くの罹患者数を維持している。しかし、効果的な治療薬は少なく、新たな治療戦略が必要とされている。SETは、炎症反応の増強やがんの悪性化に重要な役割を果たす多機能タンパク質である。がん促進因子としてのSETの機能は、重要ながん抑制因子であるタンパク質脱リン酸化酵素PP2Aの活性を阻害することで発揮される。実際に多くのがんでPP2Aの不活性化が認められており、一部のがんではSETの発現上昇と悪性度との相関が報告されている。しかし、胃癌におけるSETの発現や機能については明らかになっていない。そこで胃癌におけるSETの機能を解明することで、SETが胃癌に対する新規治療標的となりうるか検討することを目的に研究を行っている。 これまでに、イヌ悪性黒色腫細胞に対してSET阻害が抗がん効果を示すこと、マウス胃癌モデルおよびヒトの胃癌臨床サンプルにおいてSET発現が上昇していることを明らかにしてきた。本研究ではさらに項目A:培養細胞を用いたSET発現による胃癌悪性化の分子機構解明、項目B:オルガノイドを用いたSETによる胃癌悪性化の分子機構解明、項目C:担がんマウスモデルを用いたSET阻害の抗がん効果検討の3つの視点から実験を行っている。 今年度の研究成果として、項目Aでは、ヒト胃癌細胞株を用いた検討から転写因子E2F1を介した新たな胃癌悪性化メカニズムを明らかにした。また、項目Bでは、SETの過剰発現は、胃オルガノイドの幹細胞性を上昇させることが認められた。さらに項目Cでは、SETの阻害が担がんマウスモデルの腫瘍の成長を抑制することが明らかになった。今年度の研究結果から、SETが胃癌において重要な役割を果たしていることが示唆され、かつ新規治療標的として有用であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
項目Aにおける成果として、E2F1を介した新たな胃癌悪性化メカニズムを明らかにした。SETはPP2A活性を阻害することで様々な細胞内シグナルを活性化することが知られているが、胃癌細胞株においてSET発現を抑制すると、転写因子E2F1の標的遺伝子の発現が低下することが明らかになった。このメカニズムは過去に報告されていない新たな発見であり、今後の胃癌治療の発展に貢献できると考えられる。 また、項目Bにおける成果としてSETの発現は胃オルガノイドの幹細胞性を上昇させることが認められた。今回,SETを過剰発現させたところ、形成されるオルガノイドの数が増加した。また、Real-time PCRにより幹細胞マーカーであるCD44のmRNAが上昇していたことからも、SETは胃癌の幹細胞性の維持に関与していると考えられる。 さらに項目Cにおける成果として、SET阻害は免疫不全マウスに形成させた腫瘍の成長を抑制することを確認した。SET発現を安定的に抑制したヒト胃癌細胞株MKN45を免疫不全マウスの皮下に移植することで,担がんマウスモデルを作製した。腫瘍の成長を継時的に測定したところ、SET発現を抑制したMKN45では腫瘍の成長が顕著に抑制された。また、野生型のMKN45を移植したマウスに対してSET標的薬であるOP449を投与したところ、SET発現の抑制時と同様に有意な腫瘍成長の抑制が認められた。さらにOP449を投与したマウスの腫瘍部PP2A活性を測定したところ、活性の顕著な回復が見られた。 これらの結果は全てSETが胃癌に対する新規治療標的として有効であることを示す重要な知見であり、かつ次年度の研究計画に記載した事項につながる結果にもなっており、研究課題は概ね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
項目A:H28年度に引き続き、SETが胃癌悪性化を促進するシグナルの解明を行う。特に転写因子E2F1が胃癌細胞の幹細胞性を上昇させるメカニズムについて詳細な検討を行う。また、これまで明らかになっていないSETの発現を調節するメカニズムについても解析を行う。胃癌自然発症モデルマウスを用いた検討から、胃癌の発症以前に起こる炎症反応の亢進がSETのmRNAレベルを上昇させることが明らかになっている。そこで、炎症反応を介したシグナルに着目してSETの発現を調節するメカニズムを解析する。 項目B: マウス胃オルガノイドにおけるSET発現上昇が引き起こすシグナル伝達の変化の解析を行う。SETを過剰発現させた胃オルガノイドにおいて幹細胞性の上昇が認められたことから、それが細胞内のどのようなシグナルを介しているのかをreal-time PCRおよびウェスタンブロット法を用いて解析する。 項目C: SET標的薬OP449と、既存の抗がん剤との併用が胃癌成長に対する効果の解析を行う。今回、SETの阻害によりPP2Aを活性化させることが抗腫瘍効果を示すことが明らかになった。このメカニズムはこれまでの抗がん剤にはないものであり、そのため様々な抗がん剤との併用効果が期待できる。そこで、ヒト胃癌細胞株を移植したNOD/SCIDにSET標的薬であるOP449と、現在胃癌治療に用いられている5-FUやイリノテカンなどの抗がん剤を併用して投与することで相加・相乗効果が得られるか解析する。 各項目から得られた結果を踏まえ、論文の投稿についても進行させていく。
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