研究課題
シロイヌナズナの根は光源を避けて成長する負の光屈性を示す。植物の光屈性では光に誘導される植物ホルモン・オーキシンの不等分布によって器官の屈曲が生じるという考えが定説であるが、シロイヌナズナの根の光屈性は屈曲誘導にオーキシン不等分布形成を必要としない。本研究では根の光屈性において働く未知の光屈性誘導機構を解明を目的とし、平成28年度は4つの小研究課題について研究を進めた。1)オーキシン不等分布比依存的光屈性誘導機構に働く phot シグナル伝達経路を解析するため、phot シグナル伝達に働くタンパク質 NPH3 のリン酸化修飾の機能を遺伝学的に解析した。その結果、NPH3 のリン酸化修飾は phot1 の光感受性を調節していることが示唆された。2)オーキシンシグナル伝達系の根の光屈性における作用機序を明らかにするため、オーキシン受容体 TIR1 、オーキシン応答転写因子 ARF について、自己プロモーターにより YFP 融合タンパク質を発現する形質転換体を作成した。TIR1-YFP については顕微鏡観察とウエスタンブロッティングによる発現解析を行った。また、Aux/IAA 転写制御因子の根の光屈性への関与を網羅的に解析したところ、1個の Aux/IAA 遺伝子について根の光屈性への関与が疑われた。この遺伝子の根の光屈性における発現解析に向けて、自己プロモーターにより YFP 融合タンパク質を発現する形質転換体を作成した。3)根の光屈性において光受容体 phot1 により発現調節される遺伝子を RNA-Seq 解析によって探索し、約50種類の候補遺伝子を同定することができた。4)根の光屈性に働く新規の因子や経路を明らかにするため、根の光屈性と性質が類似する胚軸二次正光屈性が欠損した突然変異体の根の光屈性を解析した。
3: やや遅れている
平成28年度に行った研究については、当初の計画に比べて進展の遅れや予想外の方向への展開があり、やや遅れていると判断した。1)根の光屈性に働く phot1 シグナル伝達経路の解明を目指して解析した NPH3 タンパク質のリン酸化修飾の機能が、研究当初に予想したものとは異なることが示唆されたため、計画していた生化学的解析は行わず、遺伝学的・生理学的解析を重点的に行った。2)根の光屈性におけるオーキシンシグナル伝達系の作用機序解析については、TRI1 については予定通り解析を行うことができた。しかし ARF については、ARF-YFP 発現形質転換体を作成したが、YFP 融合タンパク質の細胞内局在に異常が見られ、予定していた ARF-YFP の発現解析を行わなかった。3)根の光屈性における phot1 発現調節遺伝子の探索については、当初の予定を変更し、先行研究で行った第1回目の解析から実験条件を再検討した上で再度 RNA-Seq 解析を実施した。その結果、期待通り新たに phot1 発現調節候補遺伝子を同定することができた。4)根の光屈性に働く新規の因子や経路の発見を目的とした胚軸二次正光屈性欠損突然変異体の分子遺伝学的解析については、予定通り解析を進めることができた。
1)根の光屈性に働く phot1 シグナル伝達経路の解析については、疑似リン酸化 NPH3 と疑似脱リン酸化 NPH3 を用いた in vivo 結合因子探索を行い、phot1 シグナル伝達に働く新規因子の同定を狙う。2)オーキシンシグナル伝達系の作用機序解析については、ARF-YFP および Aux/IAA-YFP 発現形質転換体 T3 種子を回収し、YFP 融合タンパク質の細胞内局在解析と発現解析を進める。3)根の光屈性における phot1 発現調節遺伝子の探索については、同定した phot1 発現調節候補遺伝子のレポーター遺伝子発現株を用いて根の光屈性における発現解析を行う。青色光照射依存的な発現制御が見られた場合、定量的 RT-PCR により発現制御の phot1, ARF への依存性の有無を調べる。また、T-DNA 挿入遺伝子破壊株を用いて根の光屈性における機能解析も行う。4)根の光屈性に働く新規の因子や経路の発見を目的とした胚軸二次正光屈性欠損突然変異体の分子遺伝学的解析については、平成28年度に解析した2種類の突然変異体の突然変異原因遺伝子の解明を進める。先行研究において突然変異原因遺伝子候補がゲノムリシークエンスから見つかっており、この遺伝子のノッカアウト株の表現型解析を行う。また必要に応じて、候補遺伝子を二次正光屈性欠損突然変異体に発現させる相補実験の実施を検討する。
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