研究課題/領域番号 |
16J01961
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高部 響介 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | 細菌 / スピロヘータ / 運動 |
研究実績の概要 |
本研究では、1細胞で3つの回転領域を持つとされている、らせん形細菌レプトスピラの3つの回転速度・方向の時間経過の同時計測などの、運動パラメータの定量的な計測を行うことで、離れた位置に存在する2つのべん毛モーターがどのように同調しているのかを明らかにすることを目的としている。 1年目に計画していた、3次元的に観察可能な光学系の構築し、細胞両末端の回転速度・方向を同時計測するための方法の確立に成功した。両末端の回転速度は、高速度カメラにより撮影された動画を画像解析ソフトImageJとLabVIEWを用いて解析し測定した。 遊泳時の両末端の回転速度・方向の時間的相関を、それぞれの時間変化に対して相互相関関数を計算することで評価した。その結果、遊泳時の両末端の回転は無相関だった。さらに、2年目に予定していた細胞中央領域の回転速度の計測も1年目に行うことができ、レプトスピラの持つ3つの回転領域の回転方向と回転速度の計測に成功した。 遊泳方向転換にかかる時間(同期時間)と細胞長の関係性を調べた結果、細胞長が極めて大きい細胞ではその時間が小さくなることがわかった。両末端間で力のやり取りが存在しないと仮定したモデルを用いたシミュレーション結果と比較すると、同期時間の分布は同様であることがわかった。このことから、細胞長依存的な両末端間での力のやり取りが存在することが示唆された。 また、様々な粘度条件下でのレプトスピラ運動における遊泳方向転換頻度等のパラメータの定量的計測を行った結果、粘度依存的に遊泳方向の転換運動を行う頻度が増加することが明らかとなった。このことは、粘度依存的に両末端でのやり取りが増加することを意味するが、そのメカニズムは現段階では不明である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた、光路を2つに分け、異なる焦点面での像を同時観察する方法は、光量の不足が顕著で、大きく3次元的に回転する両末端の回転方向の決定は困難であった。方法を模索した結果、両末端の回転方向の測定のための3次元観察は、高倍率・高NAの対物レンズの導入により可能となった。この計画の変更による遅れはなく、両末端の回転速度・方向の計測系の確立は予定通りに実現できた。 2年目での実現を計画していた、3つの回転領域の回転速度・方向の同時計測をすでに実現できたことが成果として挙げられる。遊泳時のレプトスピラの3つの回転領域の同時計測の結果、3つのうち2つにのみ(後方の末端と細胞中央領域にのみ)相関がみられた。これらの結果から、細胞外膜の回転を伴う、遊泳時のレプトスピラの新規の運動モデルの提案を行うことができた。 また、1年目に計画していた突然変異体を用いた運動観察については、野生型との運動的差異は観られなかったが、同期時間の細胞長依存性や粘度依存性に関しては、予定通りに行うことができ、遊泳方向転換における両末端制御機構の解明に近づく手がかりとなることが期待された。 以上のことから、予定通りに進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
1年目に引き続き、遊泳方向転換時における両末端の回転の関係性を評価するために、長時間の観察・計測・相関解析を行う。ここでは、特に細胞長と両末端の反転の時間差に注目し、時間分解能の高い計測系にて計測を行う。 応力伝播モデルの構築のために、レプトスピラの弾性的特性を実験的に計測する。計測には、光ピンセットを用いる。
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