本研究では、細長い菌体を持つらせん形細菌レプトスピラが、両末端に1つずつ存在するべん毛モーターをどのように同調させているのかを明らかにすることを目的とし、回転運動の定量的な計測や両末端の経時的な回転方向変化の観察等を行った。 遊泳時、レプトスピラは少なくとも3つの回転領域を持つことが知られている。レプトスピラの運動メカニズムを知るために、3つの回転領域の回転方向・回転速度を同時に計測し、三つ巴の関係性を調べた。その結果、3つのうち2つ(後方の末端と細胞中央領域)にのみ相関がみられた。なぜこのような相関結果が得られたのか、そのメカニズムを調べるために、クライオ電子顕微鏡を用いて、細胞内の詳細な構造データを得た。運動計測結果と電顕観察結果を基に、遊泳時のレプトスピラの回転運動モデルを提案した。 ここまでの研究で、両末端の同調制御は常に起こるものではなく偶発的なものであるため、細胞両末端の同調制御機構を明らかにするためにはより詳細な運動計測が必要である、と示唆された。そこで、両末端の形態と回転方向の時間変化に注目した。1年目に構築した計測系を利用し、形態と回転方向の時間変化を計測した。その結果、回転方向が変化しても形態変化が生じない現象が確認された。このことは、細胞末端の形態変化時の両末端間で影響を及ぼし合う仕組みが存在することを意味する。そこで、どのように影響し合うのかを調べるために、より高時間分解能での運動観察・計測を行った。その結果、形態が変化した末端からもう一方の末端へ細胞の回転が伝播し、もう一方の末端の回転に変化が生じる現象がみられた。このことは、一方のモーターの回転方向が変化したという情報が、もう一方の末端へ力学的なシグナル伝達により伝播するという当初にたてた仮説を支持するものである。
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