研究課題/領域番号 |
16J01998
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
山崎 礼二 東京薬科大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | オリゴデンドロサイト / ミエリン / ミオシン |
研究実績の概要 |
本研究は、中枢ミエリンの形成機構に着目し、オリゴデンドロサイト(OLs)に発現する非定型ミオシンの生理機能を明らかにすることを目的としている。本研究成果から、これまでに非定型ミオシンであるmyosin 1D (Myo1d)とmyosin VI (Myo6)が新たにOLsに発現していることを見出してきた。今年度は1) Myo1dの生体内における機能解析、2) OLsにおけるミオシンスーパーファミリーの発現時期および局在の解析を行った 1) 生体内のミエリン形成過程におけるMyo1dの働きを明らかにするために脱髄モデルマウスを作製し、Myo1d siRNAを病変部に投与し、Myo1dタンパク質の産生を抑制することによって、ミエリンの再形成にどのような変化が見られるかを解析した。成獣マウスに0.2%クプリゾン含有飼料を5週間投与することによって主に脳梁部の脱髄を誘導した。このマウスの脱髄時には主要なミエリンタンパク質であるMBPと同様にMyo1dが減少し、ミエリン再生とともにそれらの発現は回復するが、ミエリン再生過程でMyo1dタンパク質の産生を抑制することによって、再ミエリン化が遅延することが示された。 2) Myo1d, Myo5a, Myo6のOLsにおける発現時期をより詳細に明らかにするために中枢神経系組織とラット由来の初代培養OLsを用いて解析した。その結果、Myo1dは成熟OLsにのみ発現するのに対し、Myo5aとMyo6は前駆細胞から成熟するまで発現が持続していることを明らかにした。次に成熟OLsにおけるそれぞれのミオシンの局在について解析した。その結果、成熟したOLsでは3種とも細胞体や突起に局在し、特に先端の細い突起内でアクチンフィラメントと共局在していたが、さらに成熟が進みミエリン様膜を形成したOLsでは、Myo1dの局在が部分的に異なることを明らかにした。さらに、Myo6の細胞内局在を解析した結果から、Myo6はクラスリン被覆小胞を介したエンドサイトーシス経路に関与している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本実験では、クプリゾン含有飼料の投与により脱髄を誘導後、siRNAを直接脳梁内に投与している。脱髄モデルの作製には5週間を要し、また、再現性のある脳梁内投与技術の習得やsiRNAによる発現抑制を評価するには多くの時間を要することが予想された。しかしながら、今年度中に技術の習得および条件検討が完了し、Myo1dの発現抑制によりミクログリアおよびアストロサイトが活性化していること、ミエリン再生が遅延すること、アポトーシスが誘導されたOLsが増加傾向にあることを明らかにすることができた。加えて、OLsに発現するミオシンスーパーファミリーの発現時期や局在を調べることにより、Myo6がエンドサイトーシスに関与する可能性を示し、エクソサイトーシスに関わると報告されているMyo5aとMyo6の発現時期や分布が類似していた。さらに、Myo1dのように時期特異的に発現する分子も存在している点から、オリゴデンドロサイトには時間的、空間的あるいは機能的に異なる複数のミオシンが存在し、それぞれ分化や髄鞘形成・維持に関わっていると考えられた。これらの研究成果は論文として現在投稿中である。以上のことから、本研究はおおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
Myo1dの生体内における機能について引き続き解析を行う。現時点では、当初予想していたようにミエリン再生の遅延が確認された。しかしながら、Myo1dの発現抑制によるミクログリアとアストロサイトの活性化やオリゴデンドロサイトの細胞死が認められたことから、これらとミエリン再生との関係をより詳細に調べる必要があると考えられる。そのため、今後は現在のタイムコースの他に、siRNAの投与時期およびsiRNA投与後の異なる時期においても解析することでアストロサイトやミクログリアの活性化時期や細胞死の割合に変化が見られるかを調べる予定である。また、Myo1dと結合するタンパク質や脂質を探索しMyo1dの機能メカニズムを明らかにしようと考えている。このような結合分子はMyo1dのアクチン結合部位ではなく、tail部分と相互作用している可能性が高い。そこで、GFP融合 Myo1dとそのtail部分を欠損させた強制発現タンパク質を用い、ラット脳画分より抗GFP抗体ビーズによるアフィニティー精製を行い、Myo1dと結合するタンパク質を分離する。分離されたタンパク質は電気泳動後の質量分析などにより同定する。さらに、精製したGFP融合タンパク質を用いて特異的に結合する脂質についても解析を進める予定である。
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