本研究は、中枢ミエリンの形成や再生機構に着目し、オリゴデンドロサイト(OLs)に発現する非定型ミオシンの生理機能を明らかにすることを目的として研究を行った。昨年度までの研究成果から非定型ミオシンであるmyosin ID (Myo1d)とmyosin VI (Myo6)が新たにOLsに発現しており、これらの分子にはそれぞれ特異的な発現時期があり、OLsの分化やミエリン形成においてそれぞれが異なった機能を果たす可能性を見出してきた。また、脱髄モデルマウスを用いた解析からミエリン再生過程においてMyo1dが重要な役割を担っている可能性が示唆されている。本年度は、ミエリン再生過程におけるMyo1dの役割を詳細に解析するために、昨年度と同様にクプリゾン含有飼料による脱髄モデルマウスを作製し、再生過程の脱髄部にMyo1d特異的なsiRNAを投与した。その結果、siRNA投与でのMyo1d発現の減少により、主要なミエリンタンパク質の発現が減少していた。またこの際に成熟OLsの数には大きな変化は見られなかったが、その多くがアポトーシスを引き起こしていることが明らかとなった。これらのことから生体内のミエリン再生過程において、Myo1dは OLs成熟後 のミエリン形成最終段階で生存にも関わる重要な役割を果たしていることが示唆された。さらにMyo1dの発現抑制によって増加した活性化ミクログリアの性質を調べるために神経障害性と神経保護性のマーカーを用いて解析したところ、神経障害性のミクログリアが増加傾向であるのに対し、神経保護性のミクログリアが優位に減少していた。このことから、Myo1d発現減少によるOLs の異常により炎症が持続し、再生が遅延していると考えられた。以上の結果から、中枢脱髄後の再生過程においてもMyo1dが重要な役割を担っていることを明らかにした。
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