研究課題/領域番号 |
16J02038
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
金子 祥之 立教大学, 社会学部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | コモンズ論 / 食の汚染 / 原子力災害(原発災害) / 生活論 / マイナー・サブシステンス論 / 生活環境史 / 環境民俗学 / 環境社会学 |
研究実績の概要 |
本研究では、災害常習地域において、災害が「共に対処せざるを得ない負の資源」と位置づけられていることに注目し、地域社会が「負の共有資源」としての災害を、いかに管理してきたのかを水害常習地域、雪害常習地域、放射能汚染地域のケーススタディから明らかにすることを目的としている。 本年度は、大きく3つの成果を得られた。第一に原子力災害の特殊性が明らかになった。水害や雪害については、地域における「災害の共有化」が見てとれる。一方で、放射能汚染地域では、汚染により生活上の困難があるという事実は共有されているものの、問題へのアプローチが多様であり、「災害の共有化」が起きづらい現状がある。言い換えれば、原子力災害においては、「災害の共有化」し、地域社会が共同して対応していくことが必ずしも望ましい選択肢とは言えない。むしろ地域社会の生活実践からは、共同しないことで、多様な選択肢を確保しているようにも受け止められた。第二に原子力災害という地元にとって未知の災害に対応するにあたっても、適応策は外部の知にのみ依拠するのではなく、地元の生活文化をふまえて練り上げられていることが明らかになってきたことである。本研究では、発災時のみにフォーカスするのではなく、時間軸の長い分析方法を採用しているが、この方法の有効性があらためて確認されつつある。第三に災害常習地では、「災害の共有化」に祭祀が深くかかわっている可能性を見出せた。ただし、第三の論点は、あくまでサブテーマとして位置づけておきたい。 以上のように、災害が過酷化し、災害といかに向き合うのかが問われる現代社会にあって、本研究の重要性は増している。とりわけ本研究から得られた原子力災害の特殊性は、被災者のおかれた困難な状況を照射しており、生活再建にとって、重要な社会的意義を有するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は水害常習地域、雪害常習地域、放射能汚染地域の3つのケーススタディを通じて、現場からの災害対応のあり方を探っている。前年度は放射能汚染地域を取り巻く生活環境の変化があったため、この地域への調査に傾斜して研究を進める選択をした。そのため本年度は、3つの地域を平均的に調査し、比較研究を進めた。その結果、原子力災害の特殊性が浮かび上がってきた。それは「災害の共有化」が著しく困難となっていることである。 本研究では、地域社会が共同して困難に立ち向かうことを、従来の研究がそうであったように、肯定的にとらえていた。だが、ここで共同することの問題性が浮かび上がってきた。共同しないことの積極性もふまえた、現場からの災害対応論を構築するヒントを得ることができた。 本年度の成果状況は、学会誌等への発表9件、学会発表が国内4件、国外1件と当初の予定より多くの成果を公表することができた。ただし、理論的な検討がまだ十分に進められていない。 以上のように、平均的にフィールド調査を進めることができた。またそのことによって、比較検討が可能になり、原子力災害の特殊性が確認できた。加えて調査成果についての公表は順調に進んでいる。一方で、理論的な検討にまで到達出来ていない。このように残されている課題はあるものの、フィールド調査を中心に、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、本研究課題の最終年度にあたるため、まとめを意識した展開を進めていきたい。その際に、これまで二ヶ年の調査・研究から、やはり原子力災害を中心とした議論の展開が重要であることが明らかになってきた。また社会状況を鑑みても、この分野での調査・研究が求められている。そこで、次年度は、原子力災害を軸に本研究を推進する。加えて、理論的な検討にまで十分に手が及んでいないため、コモンズ論や被害論を検討対象として、可能な限り対応していきたいと考えている。 また研究を進めるなかから、地域の祭祀が「災害の共有化」とかかわる可能性が浮かび上がってきた。とりわけ利根川下流域のオビシャ行事には、儀礼文書に災害記録が残される事例が散見している。ただし、それは例外的な事象にとどまる可能性もあるため、あくまで本研究においては、サブテーマと位置づけておきたい。
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