本研究は、定量プロテオミクスを用いて、血液脳関門(BBB)を透過する新たなタンパク質を同定し、その輸送機構の解明および脳への高分子delivery system(DS)の構築への応用を目的としている。本年度は、本研究で同定した新たなBBB透過性タンパク質であるクレアチンキナーゼ(CK)に関して、BBBにおけるCKアイソザイム依存的な輸送活性の違いの解明と、BBBにおけるCK輸送担体の同定に取り組んだ。 CKをキャリアとした脳への高分子DSを構築する上では、より輸送活性の高いCKアイソザイムを選択することが重要である。そこで、大腸菌を用いて細胞質型のCKである脳型(CK-BB)及び筋肉型(CK-MM)のリコンビナントタンパク質を合成し、ヒト脳毛細血管内皮細胞株hCMEC/D3(D3細胞)を用いてTranswell上に構築したin vitro BBBの透過性(血液から脳方向)を解析した。その結果、CK-BBおよびCK-MMの双方で、僅かに有意ではないものの4℃に比較して37℃で透過速度が増加する傾向が見られた。また血液方向からD3細胞内への内在化活性を解析したところ、CK-BBおよびCK-MMの双方で、4℃に比較して37℃で有意に内在化速度が増加した。興味深いことに、37℃におけるCK-MMの内在化速度は、CK-BBに比較し10倍以上高いことが明らかになった。本結果から、BBBにはCKの輸送機構が存在し、CK-MMにより親和性の高い機構であることが示唆された。さらに本年度はCK輸送担体の同定を目的に、マウス胎児線維芽細胞株(MEF-1)およびそのLRP-1欠損株(PEA13)を用いて、CK-MMの取込み実験を行った。その結果、PEA13ではMEF-1に比較し有意に内在化活性が低いことが明らかとなり、BBBにおけるCKの輸送の一部にLRP-1が関与する可能性が示唆された。
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