研究課題/領域番号 |
16J02063
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
高棹 真介 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 星形成 / 磁気流体力学 / シミュレーション |
研究実績の概要 |
本研究計画は星形成領域における中心星近傍の磁場に起因する爆発現象・高温プラズマ生成現象がいかにして発生し、それが周囲の降着円盤にどのような影響を及ぼすのかを明らかにすることを目的とするものである。これを目指し私は当該年度に以下の2つの研究を進め両者を論文化し、国内外での研究会で成果報告を行った。 1つ目の論文では、近年発見された原始星から出る高温なX線ジェットの駆動機構と、そこから放射されるX線の周囲の低温な円盤に対する影響を考察した。どのように高温プラズマが形成されているかがわかっていなかったが、私は太陽コロナ加熱理論を応用し磁気的に加熱できる可能性を理論的に示した。またX線が円盤に照射されることで円盤の電離度が上がり惑星形成に重要な円盤の降着流構造が変わる可能性も指摘した。 2つ目の論文では、星近傍での磁場で駆動される爆発現象の理解に必須な原始星近傍の降着流構造と磁場構造を3次元磁気流体シミュレーションを用いて考察した。星と円盤が相互作用するようなシステムは非常に数値的に取り扱いが難しいことが知られており、数値シミュレーションによる考察は少なく過去の理論モデルに基づいた解析的な議論が多くを占めていた。その解析的な議論というのは磁気圏降着モデルと呼ばれるもので、自由落下に近い高速な降着流の存在を予言するモデルとして広く使われているものである。これに基づき現在では高速な降着流が観測されると星が強い磁気圏を持っていると暗に想定されている。しかし実際は磁気圏降着モデルに矛盾する観測もあり、このモデルの妥当性は定かではない。 そこで私はこの状況を打開するために星表面を可能なかぎり現実に即した形で表現することを試みることで、長時間安定に計算を行う手法を構築して3次元シミュレーションを行った。その結果、強い磁気圏がなくとも高速な降着が可能であることを初めて示すことに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに原始星フレアの理解に必須な星・円盤相互作用の3次元シミュレーションの手法を確立して論文を出版し、また複数のパラメータセットでシミュレーションを行い降着流や星近傍の磁場の振る舞いの依存性を調べており、これを新たな論文として成果をまとめつつある段階である。当初の予定でもパラメータ調査を行うことを予定していたので、この点は大まかに計画通りと言える。ただし磁気リコネクションで駆動される原始星フレアに関してはまだシミュレーションで十分再現するに至っておらず考察ができていない点が課題だと考えている。原始星フレアのシミュレーションが困難な理由は、原始星フレアが起きる状況では磁場が非常に強く数値的に不安定化してシミュレーションが不正終了しやすいためである。そこで現在私は強い磁場でも計算が極力不正終了しないようにシミュレーションコードを改良している。これはテスト計算も含めて1ヶ月程度で終わると考えており、原始星フレアの考察に移ることができると考えている。このように若干予定通り進んでいない部分があるが既に対策を進めているため、概ね順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
これまで星表面の境界条件の設定を済ませており、弱い星磁場を持つ星の近傍での降着流・磁場構造に関する理解を深めてきた。今後は原始星フレアの理解に向け強い磁場環境でもシミュレーションが不正終了せず継続できるようコードの改良を進めていく。そして原始星フレアの発生機構と周囲の円盤への影響を考察していく。並行して、これまでの研究でシミュレーションの分解能や円盤モデルによって原始星近傍の磁場強度などが影響を受けることがわかってきた。シミュレーション結果のより正確な理解のためにもそれらを系統的に調べることが重要であると考え、その調査結果も論文にまとめる。
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