本年度の前半は、大腸菌染色体の複製起点oriC上でのDnaA多量体形成から一本鎖oriC DNA結合までの分子機構に関する研究成果を筆頭論文として投稿し、その追加実験に時間を費やした(2017年9月末、論文受理)。この機構はDnaBヘリカーゼ装着の前段階である。本年度の後半に以下の課題に取り組んだ。 (1)大腸菌細胞内でのDnaB-DnaA相互作用の検討:これまでの生化学的解析により、oriC上で形成されたDnaA多量体中の特定のDnaA分子が、DnaBと機能的な相互作用をもつと示唆されていた。大腸菌細胞内でも解析を行うため、DnaB-DnaA結合と競合するDiaAを欠損させた株を用いて、oriC内の特定のDnaA結合部位にDnaB結合能欠損変異DnaAを導入した。この細胞の複製開始能を解析した結果、生化学的解析結果が支持された。 (2)DnaB装着時における一本鎖DNA結合の意義の解明:oriCの左側領域上に形成されるDnaAサブ多量体が一本鎖oriC DNAと結合することを見出していたが、本年度の試験管内構成系を用いた解析研究により、右側DnaAサブ複合体も一本鎖oriC DNAと結合すること、そしてこれがDnaB装着を促進することが示唆された。また、oriCの左側領域では、DnaA濃度が十分高い場合と異なり、低濃度DnaAでは、片側の一本鎖oriC DNAのみにDnaBが優先的に装着されることが示唆された。以上の結果から、oriC上で形成された各DnaAサブ複合体が、一本鎖oriC DNAと結合して一本鎖状態を安定化させることで、効率のよい両鎖へのDnaB装着が進められると考えられた。
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