研究課題/領域番号 |
16J02077
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
齋藤 慎平 筑波大学, システム情報工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 原子炉過酷事故 / 炉心溶融 / 溶融ジェット / 微粒化 / 液滴生成 / 液液二相系 / 二相系格子ボルツマン法 |
研究実績の概要 |
炉心溶融を伴う過酷事故の発生は,原子力施設における重大事故の一例である.このような過酷事故が発生した場合においても,溶融した炉心燃料(以下、溶融物)を原子炉圧力容器内において安定的に冷却保持することは,安全性の観点から不可欠である.この過程は炉容器内終息と呼ばれ,達成のためには溶融物の熱流体挙動を十分に把握し,高精度に予測・評価する必要がある. 本研究は,上述のような原子炉過酷事故時における,溶融物ジェットの分散・微粒化メカニズムを明らかにし,溶融物の冷却性予測手法の構築を目的とするものである. 本研究は,実験的手法と数値計算的手法を駆使して進めるものである.本年度は,実験においては,模擬溶融物ジェット可視化部ならびに射出機構を製作し,高速度カメラによる可視化計測を実施した.この際に,ジェットの流入速度,流入径をパラメータとし,さらに試験流体の組み合わせを変更することにより,物性の影響も考慮した実験を実施した.取得したデータは,画像処理を通じて解析し,その分裂長さと液滴径分布に基づき流動様式を分類した.また,現象論的考察に基づき各流動様式の境界を示す相関式を提案した.これらの整理は一般的なものであり,液液二相系における噴流崩壊のダイナミクスという混相流体力学としての重要知見である.さらに,得られた相関式を外挿することにより,実機条件において想定される流動様式の予測を可能としたことは,実機条件評価に資する成果である. 数値解析においては,極めて複雑な界面流動を伴う場合においても,数値的に安定な二相系格子ボルツマン法を構築した.数値的安定性を保つために,3次元27速度格子上において多緩和時間衝突則を導入し,巨視的方程式をみたすように定式化した.従来モデルに比べて安定であることを確認しており,実験で得られたジェットの流動様式を再現可能であることを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該年度においては,実験的に取得した模擬溶融物ジェットの可視化結果を画像解析し,その特徴に基づき液液二相噴流の流動様式を分類した.詳細な観察に基づき,流動様式ごとに異なるメカニズムで微粒化が起きることを明らかにした.また、現象論的な考察に基づき、各様相の境界を定式化し,流体力学的観点から実機条件の評価を可能としている.実験データの取得のみならず,ジェット微粒化メカニズムを得た点および実機条件の予測を可能にした点は当初の計画以上に進展したと判断する.また,実験と並行して構築した,二相系格子ボルツマン法に基づく数値計算モデルの構築に当たっては,当初計画していた,数値的に安定な二相系モデルの構築のみならず,実験結果との比較・検討まで実施することができた.実機条件を目指した大規模計算へ向けた課題の抽出までのフェーズに進むことができたため,数値解析についても当初の計画以上に進展したと判断する.
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今後の研究の推進方策 |
本年度に構築した二相系格子ボルツマン法については,これまでにない新規なモデルであり,次年度の早い段階で学術誌に投稿し成果として公表する.また,本年度においては,大規模計算に向けた課題点を抽出した.これに基づき,開発した計算コードのチューニングを実施し,液液二相ジェットの微粒化過程に関して,スーパーコンピュータを用いた大規模計算を行う予定である.これにより,これまでに捉えられなかった微細な界面流動構造を把握し,微粒化メカニズムの理解を深める.さらに,最終的な目標である実機条件相当の大規模計算に必要な格子数やパラメータの検討を行う. これと並行して,格子ボルツマン法という同じ枠組みの下,溶融した微粒化物の冷却性予測に資する相変化モデルを構築する.次年度においては,簡易な2次元体系において相変化のシミュレーションを実施し,妥当性の確認を進める.
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