研究課題/領域番号 |
16J02156
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
福井 智也 筑波大学, 数理物質科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | 超分子ポリマー / 超分子集合体 / 時間発展現象 / リビング超分子重合 / ポルフィリン誘導体 |
研究実績の概要 |
本研究は、速度論支配下における超分子集合体形成の精密制御を目的とする。平成28年度は、ポルフィリン誘導体の合成とその超分子ポリマー形成メカニズムの解明、および、リビング超分子重合について検討した。その結果、全く予期しなかった超分子集合体の「分化」現象を発見した。 ポルフィリン誘導体に、ブチル基からヘプチル基まで長さの異なるアルキル鎖を導入した分子を4種類合成した。それぞれの分子のメチルシクロヘキサン溶液中における自己集合挙動を、分光学的手法および原子間力顕微鏡観察から評価した。短いアルキル鎖をもつ4, 5は、当研究グループが過去に報告したものと同様に、ナノ粒子を速度論的に形成したのち、ナノファイバーへ形態転移した。興味深いことに、長いアルキル鎖をもつ6, 7では、速度論的に形成したナノ粒子を数時間攪拌すると、2次元ナノシートへ形態転移することが明らかとなった。 超分子ポリマー形成の熱力学モデルであるisodesmicモデルおよびcooperativeモデルをもちいることで、ナノ粒子、ナノファイバー、ナノシートの熱力学安定性をそれぞれ算出した。さらに、形態転移に要する時間の濃度依存性から、集合体形成の経路を解明した。以上から、分子4-7の自己集合に関するエネルギーランドスケープを描くことに成功した。 非常に興味深いことに、分子6のナノ粒子に対して攪拌ではなく超音波照射を行うことで、ナノ粒子はナノファイバーへ形態転移することが明らかとなった。すなわち、分子6のナノ粒子は、ナノファイバーとナノシートの両方へ分化する能力を秘めた超分子集合体であることが示された。 超分子集合体の分化現象は、ナノファイバーもしくはナノシートを種としてナノ粒子に添加することでも制御可能であることが明らかとなった。この現象を応用することで、1次元と2次元のリビング超分子重合に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は、速度論支配下における超分子集合体形成の精密制御を目的としている。平成28年度においては、異なる長さのアルキル鎖を修飾したポルフィリン誘導体を4種類合成し、それぞれの自己集合挙動について詳細に検討した。その結果、全く予期しなかったことに、準安定状態の超分子集合体が「分化」する現象を発見した。具体的には、速度論的に形成したナノ粒子が熱力学的により安定な1次元ナノファイバーや2次元ナノシートのどちらか一方へ時間発展する、極めて珍しい現象が観測された。超分子集合体の分化現象のメカニズムを解明し、応用することで、1次元および2次元リビング超分子重合をも達成した。リビング超分子重合により、ナノファイバーの長さやナノシートの面積といった、超分子集合体のサイズを精密に制御することが可能となった。これらの研究成果は、自己集合や自己組織化を精密に制御する新手法として、今後、材料創製研究の新たな展開に寄与するものであり、期待以上の研究の進展があった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、速度論支配下における超分子集合体形成の精密制御を目的としている。平成28年度においては、超分子集合体の文化現象の発見や2次元リビング超分子重合の達成といった、当初の予想を遥かに上回る成果が挙げられている。平成29年度においては、これらの成果をさらに発展させ、ブロック超分子集合体の創製という超分子化学の新領域に着手する。ブロック超分子集合体の精密重合法に関して詳細に検討し、さらに、より複雑なナノ構造を有する超分子集合体の合成に取り組む。
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