本研究は、速度論支配下における超分子集合体形成の精密制御を目的とする。平成29年度は、平成28年度の研究成果をさらに発展させ、(i)複数分子が関与する超分子集合体の分化誘導、および、(ii)リビング超分子重合によるナノ構造体の精密合成について研究を遂行した。 (i)meso-位にへプチルオキシ基をもつ分子5とへキシルオキシ基をもつ6の混合系における超分子集合体の分化現象について検討した。分子5のナノ粒子は、数時間の誘導期ののち、ナノファイバーへ形態転移する。一方、分子6のナノ粒子は、ナノファイバーもしくはナノシートへ時間発展的に分化する。興味深いことに、分子5と6が共集合したナノ粒子は、ナノファイバー状共集合体のみへ形態転移することが明らかとなった。分子5が僅か5 %しか存在しない場合においても、ナノシートへの分化は全く誘導されなかった。種々の測定から、混合系において、ナノシートの核形成過程は阻害されるが、ナノファイバー形成過程は阻害されないことが示された。本研究から、複数分子の混合系においては、複数の平衡が時間軸上で影響し合うことにより、超分子集合体の分化経路が決定されることが明らかとなった。 (ii)超分子集合体のナノ構造を分子レベルで制御することを目指した。具体的には、分子内にポルフィリン骨格を2つ持つ誘導体D12を新たに合成し、その自己集合挙動、および、それをタネとした分子1とのリビング超分子重合について検討した。メチルシクロヘキサン溶液中におけるD12の自己集合挙動を分光学的手法により評価した結果、溶液への数時間の超音波照射により、それぞれナノファイバーを形成することが明らかとなった。形成したナノファイバーを重合開始のタネとし、分子1とのリビング超分子重合を行ったところ、D12のタネは分子1の超分子重合の開始材となることが明らかとなった。
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