研究課題
本研究は、地球下部マントルの主要鉱物であると考えられているブリッジマナイトの化学的・物理学的性質への水の影響を高温高圧実験によって解明し、下部マントル中の水の存在の手がかりを得ることを目的にしている。昨年度は、放射光施設SPring-8において放射光X線その場観察実験を用いてAlに富む含水ブリッジマナイトの状態方程式を決定した。その際、閉鎖系による放射光X線その場観察実験法を開発し、この開発によって脱水反応を防ぎ圧縮特性や熱弾性的特性を決定できた。また、ヘリウム圧媒体を用いたダイヤモンドアンビルセルを用いることで常温における圧縮特性を決定した。この両者を比較することで脱水反応の有無を判断した。以上の結果からAlに富む含水ブリッジマナイトはMg端成分のブリッジマナイトと比べ常温常圧では体積弾性率が小さいことが明らかになった。一方で格子体積や体積弾性率の圧力微分は大きく、常温高圧下では格子体積及び体積弾性率は逆転する結果となった。また、熱膨張率はAlに富む含水ブリッジマナイトの方が大きく、高温高圧下では格子体積及び体積弾性率は小さいことが明らかになった。上記のように決定された性質をもとに下部マントル条件での水の存在を検証した。地震波速度に対応するバルク音速をMg端成分ブリッジマナイトとAlに富む含水ブリッジマナイトを比較すると20-60 GPaの圧力範囲で計算を行うと2-5%程度Alに富む含水ブリッジマナイトの方が遅く、実際の地震波速度の観測で水の存在を検証する時の指標になりえる。
1: 当初の計画以上に進展している
昨年度はおおむね年度当初の計画通りに進めることができた。特に本課題の大きな目標の1つであるAlに富む含水ブリッジマナイトの状態方程式を閉鎖系における放射光X線その場観察実験方の開発を行ったうえで決定することができた。これは当初の計画よりも順調に進展しており、決定した物理学的観点から下部マントルにおける水の存在を考察できることが可能になった。この成果は、今年度5月に幕張で開催されるJpGU-AGU joint meeting 2017にて報告し、論文へまとめる準備を進めている。また、中性子施設J-PARCでAlに富む含水ブリッジマナイトの水素位置の決定及び圧力挙動をおこなっているが、共存相として含水相のスーパーハイドラスB相が存在している。リートベルト解析を行う際に従来のMg端成分のスーパーハイドラスB相のデータでは、うまく解析を行うことができず、Alを含むことによって結晶構造に変化が起きていることが予想される。この相の合成及び化学組成も行っており、その成果を金沢で開催された鉱物科学会で口頭発表を行った。これは当初の計画にはなかったものであり、こちらの結果も順調なため、当初の計画以上に進展していると言える。
昨年度はAlに富む含水ブリッジマナイトの状態方程式の決定をすることで物理学的性質を決定することができ、大きな目標の1つを達成することができた。この成果を先行研究である単結晶X線構造解析や粉末中性子回折による水素位置を含めた構造の最適化を考え、鉱物学的知見からも水がブリッジマナイトに与える影響を考察し論文を執筆する。もう一つの目標である化学的性質であるAlに富む含水ブリッジマナイトの含水量の温度圧力依存性は二次イオン質量分析器による含水量の決定を遂行しており、置換様式や格子体積の変化を考察することによって化学組成や格子体積から含水量を推定する方法を確立する。この方法を確立することによって大きい結晶が得られない超高圧実験の試料に対して含水量を推定できるようになる。これによって、より広い圧力範囲で最大含水量の決定を行える。スーバーハイドラスB相に関してはAl量の少ない相と多い相の共存が観察された。これは先行研究で報告のあるD相と同じような挙動である。この試料に対して単結晶構造解析を行い、詳しい結晶構造の決定及び鉱物学的にAlの置換様式を決定、考察を行う予定である。さらに上記研究に並行して高圧中性子回折実験によりAlに富む含水ブリッジマナイトの水素位置の圧力挙動を明らかにする。2017年度はJ-PARCにおけるパルス中性子回折その場実験のビームタイムを獲得している。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 8件) 備考 (1件)
Review of Scientific Instruments
巻: 88 ページ: 044501
10.1063/1.4979562
http://www.grc.ehime-u.ac.jp/