研究実績の概要 |
本研究は、地球下部マントルの主要鉱物であると考えられているブリッジマナイトの化学的・物理学的性質への水の影響を高温高圧実験によって解明し、下部マントル中の水の存在の手がかりを得ることを目的としている。今年度は、様々な組成のブリッジマナイトを合成し、二次イオン質量分析器によって含水量を測定し、ブリッジマナイトの最大含水量の圧力依存性および化学組成依存性を決定した。合成実験は、愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター設置のマルチアンビル型高圧発生装置”ORANGE-2000”および”ORANGE-3000”を用いて行った。出発物質には、Mg, Al, Si, H, Oを含んだクライノクロア、Feを含んだクローライト、地球マントルのモデル物質であるパイロライトを用いた。実験は23-32 GPaで行い、温度は1600℃一定で行った。含水量の測定は北海道大学設置の二次イオン質量分析器を用いた。使用したすべての出発物質で含水量は圧力とともに増加することが明らかになった。ブリッジマナイトの含水量メカニズムとしてSi = Al + Hが報告されている (Inoue, Kakizawa et al., in prep) 。ブリッジマナイト中のAl量は圧力とともに増加する報告があるので、圧力が増加することでAlが多く固溶し、含水量が増加したと思われる。含水量とFe/Al比には直線的な関係があり、Fe/Al比が小さくなるに従い含水量は増加する。これにマントルのモデル物質であるパイロライトと沈み込むスラブのMORBのFe/Al比を比べると、660 km不連続面での最大含水量はそれぞれ0.1, 0.15 wt%と見積もられた。大量の水を含んだリングウッダイトが沈み込んだ場合、ブリッジマナイトはすべての水を含むことができないため、660 km不連続面では、脱水に伴った溶融が起こることが予想される。
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