研究課題/領域番号 |
16J02215
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
汪 子涵 筑波大学, 数理物質科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 時間分解走査トンネル顕微鏡 / スピンダイナミックス / 多探針走査トンネル顕微鏡 |
研究実績の概要 |
平成29年度(2017年度)の研究実績は以下の通りでした。 1.平成28年度開発した核スピンを測定する為の中核技術となる「ロックイン計測における変調方式」を時間分解STMシステムに導入&テスト(実験の検証)を出来ました。半導体「電子」スピンとは異なり、「核」スピンを効率的に励起するには、長い初期化時間(同じ円偏光を当て続ける時間)が必要不可欠です。開発した新しいレーザー光変調方式を使うことで、低温・磁場印加中で実際に核スピン計測を実施し、各部が期待通り動作することを確認しました。しかし、新たにデータ再現性の問題が発見され、原因を検討したところ、レーザーシステムの強度安定性・空間位置安定性の向上が必要なことが分かりました。現在の時点、安定化システムの開発・導入を準備中です。 2.平成28年度開発した多探針時間分解STMシステムを用いて、2次元半導体の一つである遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)の電子スピンダイナミックスの計測に成功しました。室温で、単層・多層のTMD系試料の電子スピン緩和時間を測定し、我々の時間分解STMシステムが幅広いナノスケールスピンダイナミクス(キャリア・電子スピン)計測に応用出来ることを証明しました。 3.単探針時間分解STMシステムで磁性半導体の一つであるMn/GaAsの室温の電子スピンダイナミクスを観察できました。超高真空中GaAs試料を劈開して、劈開された断面の上にMn原子を蒸着させ、Mn蒸着量によって、GaAsの電子スピン緩和時間の変化を観測しました。
以上は平成29年度の研究実績概要です。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度の一年間は主に下記3点をゴールにして研究を進んでいました。1.核スピンダイナミックス時間分解STMの開発及び実験。2.多探針時間分解スピンSTMの実験。3.現在の時間分解STMを用いて電子スピン系の計測実験。 ゴール1について、低次元半導体原子核スピン計測システムの構築、つまり、核スピン時間分解STM用の新しい「レーザー光変調ロジック」の開発が完了しました。新しいレーザー光変調方式より、低温・磁場中の時間分解システムで実験を検証し、電子スピンの歳差運動状態変化(核スピンの影響より)観測が出来るような実験データを取りました。しかし、実験しながら、一つ問題点を発見しました。つまり、データの再現性が問題となりました。繰り返し測定を行う中で検討した結果、レーザーシステムの不安定さが低いデータの再現性の原因である事が判明しました。 ゴール2について、開発した多探針時間分解STMシステムを用いて、低次元半導体のスピンダイナミックス計測の実験をしました。平成28年度の研究内容の一部として、多探針STMを利用して時間分解分解測定行う手法を検証した上、2次元半導体の一つである遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)のキャリアダイナミックスの計測に成功しました。今年度行った多探針スピンダイナミックス計測はこの多探針時間分解STMを用いたものです。本来の電子スピン計測システムと多探針STMとを組み合わせ、TMD系薄膜試料で電子スピンの緩和時間を測定できました。 ゴール3は進行中です。我々の核スピンダイナミックス計測では電子系スピンダイナミックスを利用して核スピンの励起及び計測を行うため、電子スピンダイナミクスに対する理解を深めることが必要です。今時点まで、時間分解STMを用いた磁性半導体(Mn/GaAs)での室温の電子スピンダイナミックス計測を行い、有効な実験データを得ました。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方案として、主に3点があります。 1.核スピンダイナミックス時間分解STMシステムの改良。我々の開発したレーザー光変調ロジックではポッケルスセルのスイッチング頻度が時間と共に変化することになりますが、そのスイッチング頻度が光学系のわずかなずれを生じるのでした。現在はレーザー強度および空間位置をモニタし、微小なずれを補償するための制御システムを作り、この問題を解決することを試みています。データ再現性を向上する為に、「レーザー強度・空間位置安定化装置」を導入する事が予定します。 2.多探針時間分解STMより、1) 複雑なTMD系ヘテロ接合試料を使って、時間・空間分解のキャリアダイナミックス及び電子スピンダイナミックスを計測する、2) 多探針STMを用いた核スピンの計測の可能性を検証する、の2点を計画しています。 3.低温で量子井戸試料の電子スピン計測。この為には、(110)面方向の量子井戸が必要ですので、現在、試料作成を担当する共同研究者と試料の構造を検討しています。
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