本研究では,名義データと組成データに着目し,これらを扱う離散選択モデルを対象として,空間統計学,空間計量経済学,組成データ解析の方法論を援用しながら,離散選択モデルとその評価・利用に関して改良・開発を行うことを目的としている.本年度は以下の内容を実施した.
(1)説明変数の空間的波及効果を考慮するcross-regressive型の空間多項ロジットモデルの小標本特性を検証した.このモデルを用いた実証分析では,説明変数Xとその空間ラグ項WXの共線関係が問題となることが多いため,L2正則化と制限付直交化による対応も併せて検証した.得られた結果から,サンプルサイズが小さい(100程度の)場合,提案手法はXおよびWXの推定値のRMSEを改善するなどの傾向を確認した.(2)昨年度のサーベイから明らかとした空間計量経済学と組成データ解析を融合したモデルの開発余地に対して,新たなモデルを検討した.具体的には,多変量空間データにおける空間的相関について,地理的位置の異なる同一変量間の空間的自己相関だけでなく,地理的位置の異なる不同変量間の空間的相互相関を考慮する新たな空間組成モデルを開発し,土地利用組成データへの適用を通じてその優位性を確認した.この成果について,空間統計学と組成データ解析のそれぞれの国際会議であるSpatial Statistics Society 2017とInternational Workshop on Compositional Data 2017にて発表した.(3)組成データを扱う統計モデルとして,集計ロジットモデル,ディリクレ回帰モデル,組成モデルを取り上げてそれらの関係を整理し,特徴的な差異として被説明変数に含まれるゼロ値割合が予測精度に与える影響を,交通機関分担率データを用いて実証的に検証した.
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