研究課題/領域番号 |
16J02232
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研究機関 | 愛知淑徳大学 |
研究代表者 |
渡辺 友里菜 愛知淑徳大学, 心理医療科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | 視覚的注意 / 反応頻度 / 随伴性学習 / 刺激反応適合性課題 / サイモン課題 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,刺激と手による反応(手)の頻度に関する学習(随伴性学習)が,刺激反応適合性課題(例:サイモン課題)におけるブロックレベルの適合性効果の変動(Proportion Congruency効果,以下PC効果)に関与していることを示すことである。 2016年度は,3つの実験から,左右手間の随伴性の差(反応頻度の差)がサイモン課題の遂行成績(反応時間や誤答率)に与える影響を検討した。 実験課題はいずれもパソコンの画面に呈示される刺激の色(赤色/緑色)に対応した手(例:赤色:左手,緑色:右手)で,できるだけ速く,できるだけ正確な反応を行うことだった。一つ目の実験(実験1)は,左右手の反応頻度を同等にし,左右視野の一致試行出現確率(以下PC)を50%に操作した。実験1の結果,サイモン効果は視野のPC(PC50)を反映し,呈示位置に関わらず同じ大きさとなった。実験1だけでは,手の反応頻度と視野のPCのどちらの寄与か不明なため,二つ目の実験として垂直サイモン課題(反応ボタンの配置が上下)を実施し,視野はPC50で左右手に反応頻度の差がある事態の検討を実施した(実験2)。この結果から,反応頻度をサイモン課題の反応時間を左右する要因と特定した。実験3は,刺激に対するボタン押し回数(1回,2回)を操作し,左右手の反応頻度を変化させ,ボタンを押す回数は遂行成績に影響を及ぼさないことを示した。つまり,実験1と実験2の結果は,単純な反応頻度ではなく刺激―反応の頻度によることが改めて示された。サイモン課題の遂行成績は,刺激―反応(手)の頻度により変化することを示し,本年度の目標は達成された。 心理学研究に掲載が内定した知見は,呈示位置は視覚情報の処理の際に手掛かりとなること,呈示位置によるPCの操作は,視覚情報選択性の調整を確かめる指標として適することを示し,本研究の操作の妥当性を高めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに,研究はつつがなく進行している。反応頻度の偏りによってサイモン課題の遂行成績が変化することを示し,今年度の目標は達成された。最初から実施予定であった実験1に,実験2,実験3を追加することで,サイモン課題のような刺激―反応適合性課題の遂行成績を変化させる要因を絞り込むことができた。それに加えて,研究誌(心理学研究,人間環境学研究)掲載が確定した論文により,実験課題における操作の妥当性が高まり,本研究課題の基礎は盤石なものとなった。現在は,実験1,2の知見をまとめ,国際誌へ投稿するための準備を行っている途中である。 実験1から実験3は全て,画面上の呈示位置(左右)と反応する位置(左右)の情報間に競合が生じるサイモン課題を使用してきた。平成29年度からは,反応競合だけでなく,刺激間競合でも,同様の知見が得られるかどうかを検討していく。実験4および実験5では,刺激間(弁別が求められるターゲットと,その周辺のノイズ)で競合が発生するフランカー課題での検討を行う。これらの実験は,プログラム等の準備を終えて既に開始されており,実験計画は順調に推移している。また,この刺激間競合課題での検討を終えたのち,刺激と手による反応(手)の頻度に関する学習が,どれだけ汎用的に活かされる情報であるかを検討するために,単純な弁別課題に反応の偏りをもたせた実験計画を考案している最中である。この実験は,プログラムの内容などの詳細が決まり次第,速やかに実施予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の今後の推進方策は以下の通りである。まず,サイモン課題だけでなく,フランカー課題(中央のターゲットを判断し,周囲のノイズを排除する課題)のような刺激間競合のある課題でも刺激と手による反応(手)の頻度に関する学習(随伴性学習)が,遂行成績に影響を与えるかを検討する(実験4)。この課題の結果を,今年度実施した実験1,実験2(共にサイモン課題)と比較することで,左右手間の反応頻度の差が無い場合と,有る場合の対比を行う。この対比から,刺激反応適合性課題における手の反応頻度の偏りの有無が,遂行成績とPC効果とに関与していることを示すことが可能だろう。 更に,発展的内容として本研究の知見が汎用性の高いものであることを示していく。そのために,反応の偏りがもたらす反応の促進は,競合課題のみで生じるのかどうかを検討する予定である(実験5)。具体的には,反応の偏りによる反応の促進は,競合の解消が必要とされない事態で生じるのかどうかを検討する。刺激の色を弁別する課題を用いた実験を実施する予定である。この実験においても,反応の偏りにより遂行成績が向上するのであれば,相対的に左右手どちらかの反応が多いという手掛かりは,競合課題以外でも有効であることが示せる。つまり,速やかな対応が求められる課題遂行全体に役立つ手掛かりとして,広範的に用いられるものであることを示すことができるだろう。 このように,来年度は実験から得られる知見がどれだけ汎用的なものであるかを検証していくことで,知見の一般化を目指す。
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