研究課題/領域番号 |
16J02245
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
木戸 康人 神戸大学, 大学院人文学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | 言語発達 / 日本語 / 単純動詞 / 複合動詞 / 移動動詞 / 獲得順序 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、日本語を母語とする子どもと子どもの周りの成人が使う日本語の単純動詞と複合動詞の使用実態を調査し、それを博士論文としてまとめた 。本研究の目的は、日本語を母語とする子どもによる母語獲得の中間段階を解明することである。具体的には、子どもがいつ、どのような日本語複合動詞を発話するのかを記述することを通して、日本語を母語とする子どもが、どのような過程を経て成人の文法を獲得するのかを解明することを試みた。 その結果、まず、子どもも周囲の成人も複合動詞をおよそ1%しか使っていないことが明らかになった。さらに、周囲の成人が使う複合動詞は様々な前項動詞と後項動詞の組み合わせであるにもかかわらず、子どもが初めに発話するものは、「くっ付く」や「引っ張る」などのように前項動詞が促音便化した複合動詞であるという共通点があることを示した。 次に、日本語複合動詞を語彙的複合動詞と統語的複合動詞という影山 (1993) による分類によって区別すると、子どもは語彙的複合動詞に分類されるものを2歳前後から発話し始めるのに対して、統語的複合動詞に分類されるものを3歳ごろから発話し始めると一般化した。 さらに、日本語を母語とする子どもの動詞の獲得順序をできるだけ正確に記述するために、調査対象を複合動詞だけでなく単純動詞にも拡げた。その結果、後項動詞が「出す」「込む」などのように移動動詞である複合動詞の場合、それが発話されるよりも前に、単純動詞としてその移動動詞が発話されることを観察した。この観察は、語彙的複合動詞に分類されるものの中でも、後項動詞が移動動詞である複合動詞は他の語彙的複合動詞とは異なる順序で獲得していることが示唆されると報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は次の理由によりおおむね順調に進展していると言える。本研究では、子どもがどのように日本語複合動詞を獲得しているのかを詳細に研究するために、子どもの単純動詞と複合動詞の発話実態の記述だけでなく、複合動詞の内部構造や前項動詞と後項動詞の意味関係を正しく理解できているかを調査することを目的としている。 平成28年度は、まず、子どもの発話資料が収録されているCHILDESデータベースを使用して、発話分析を中心とした質的研究に多方面から取り組み、複合動詞の発話実態の記述に成功した。具体的には、日本語を母語とする子どもがいつ、どのような複合動詞を発話するのか、どの程度日本語複合動詞を発話するのかを調査した。特に、1歳台から発話が記録されている子ども3名を対象とし、その子どもたちの発話記録を検索ソフトであるCLANを用いて抽出した。その後、模倣が含まれていないかどうかを調べるために、発話データをすべて目視した。それと同時に、子どもと子どもの周りの成人がどの程度の割合で複合動詞を使っているかを調べるために、それぞれのタイプ頻度とトークン頻度を調査した。さらに、日本語の平均発話長(MLUm)の基準を基に、子どもが最初期に発話する複合動詞が複雑述語が観察される時期から発話されるのかどうかを調査した。 このように、データの質を高めるために、検索ソフトCLANを使用するだけでなく、目視による方法も行った。また、抽出されたデータをトークン頻度とタイプ頻度に分類することでデータの精緻化を行った。さらに、MLUmの観点からも分析を行った。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、子どもがどのように日本語複合動詞を獲得しているのかを詳細に研究するために、子どもの単純動詞と複合動詞の発話実態の記述だけでなく、複合動詞の内部構造や前項動詞と後項動詞の意味関係を正しく理解できているかを調査することを目的としている。 平成28年度に単純動詞と複合動詞の発話実態を調査する研究が行われ、その成果が博士論文としてまとめられたため、平成29年度には、日本語を母語とする子どもが複合動詞の内部構造や前項動詞と後項動詞の意味関係を正しく理解できているかどうかを調査するための心理実験を行う予定である。 心理実験を行うためには、まず、その実験課題を作成する必要がある。精度の高い実験課題を作成するために、英語において観察される複雑述語の獲得について、CHILDESと心理実験の両面から研究を行っているUniversity of ConnecticutのWilliam Snyder先生のもとで研究を遂行する予定である。 そうすることにより、実験課題を作成し、その課題を基に実験を行うことで、日本語を母語とする子どもが複合動詞の内部構造や前項動詞と後項動詞の意味関係を正しく理解できているのかどうかを調査する。
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