研究課題/領域番号 |
16J02249
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
淺井 聡太 名古屋大学, 多元数理科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | メッシュ多元環 / 安定加群圏 / 三角圏 / グロタンディーク群 / ブリック / τリジッド加群 |
研究実績の概要 |
今年度は、ADE型メッシュ多元環の安定同値分類を完成させた。すなわち、異なるADE型メッシュ多元環の安定加群圏が三角圏として同値になるための、必要十分条件を与えた。その結果は、自明な場合を除いて、安定同値になることはない、というものであった。これが今年度の最も大きな成果であり、プレプリントをarXivで公開した。 まず、これらの多元環の安定加群圏について、三角圏としてのグロタンディーク群を決定した。グロタンディーク群は三角圏に付随するアーベル群であり、三角圏同値の重要な不変量の一つである。ADE型メッシュ多元環は、自己入射的であるので、安定加群圏のグロタンディーク群は、単純加群の同型類を生成元とする自由アーベル群を、射影的加群の組成因子で生成される部分群Hで割ったものとなる。理論上は、行列の単因子変形をすれば、グロタンディーク群は求まるのだが、実際には、非常に複雑な成分計算が必要となる。そこで当該研究員は、単純加群の簡明な射影分解がDugasの結果から得られることに着目し、部分群Hの新たな生成元をとることで、商加群の計算を大幅に簡略化することに成功した。 これとは別に、多元環上のτ傾理論において、当該研究員はセミブリックという概念を導入し、研究を始めた。τ傾理論では、Adachi-Iyama-Reitenによって導入された、台τ傾加群が用いられる。先行研究において、台τ傾加群は、加群圏上の関手的有限なねじれ類などと、1対1に対応することが知られている。一方ブリックとは、自己準同形環が斜体となる加群のことであり、当該研究員が導入したセミブリックとは、互いにHomに関して直交するようなブリックの集合のことである。これらについて、今年度は一般的な考察を行い、プレプリントをarXivに投稿した。今後は、ADE型メッシュ多元環を含め、具体的な多元環に対しこの研究を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、すべてのADE型メッシュ多元環について、その安定加群圏のグロタンディーク群を決定し、さらに導来同値・安定同値分類を完成させた。この結果は、プレプリントをarXivに公開し、国際集会ICRA (Workshop and International Conference on Representations of Algebras)で講演を行うなど、公のものとなりつつある。これが本年度の計画の柱であり、計画はおおむね順調に進展しているといえる。 研究者との交流という観点では、ブリックを用いたτ傾理論について講演を行ったところ、これに興味をもつ他の研究者との交流ができた。当初の計画とは異なる方向性ではあったが、よい交流ができたと思われる。τ傾理論におけるブリックの役割は未知の部分も多いので、今後の発展のためにも、より多くの研究者と新たな関係を築いていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
ADE型メッシュ多元環のグロタンディーク群については、商用雑誌への投稿・掲載を、できれば平成29年度中に完了させたい。 また、ブリックを用いたτ傾理論については、まずはADE型前射影的多元環のブリックの分類を完成させたい。ADE型前射影的多元環は、ADE型メッシュ多元環の一例である。MizunoやIyama-Reading-Reiten-Thomasなどの先行研究により、前射影的多元環のτリジッド加群については、対応するディンキン図形のコクセター群を用いた分類が既に得られている。一方、τリジッド加群とブリックの対応については、Demonet-Iyama-Jassoによる先行研究や、当該研究員自身の論文で、一般論が確立されている。これらを組みあわせることにより、ADE型前射影的多元環のブリックやセミブリックを、コクセター群を用いて分類することをめざす。コクセター群は、ADE型メッシュ多元環の安定同値分類において、安定加群圏の団傾対象を構成する際にも役に立った。このときに得た知識や手法を、ブリックの研究にも生かすことができると期待される。
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