研究課題
先行研究において、0.05%コール酸添加飼料摂取ラットにおいて発症した非肥満型脂肪肝では、肝臓での炎症性サイトカインの発現増加や血中での炎症性サイトカイン濃度増加が全く観察されなかった。しかしながら、消化管透過性の亢進が確認された。脂肪肝発症のメカニズムとして、肝脂肪蓄積が生じた後に炎症や酸化ストレス亢進などが症状を悪化させるという「two hit説」が提唱されている。我々が見いだしたコール酸誘導性脂肪肝では酸化ストレス、炎症や繊維化などの2nd hitに関わる因子は作動していないことから、このコール酸添加飼料摂取での脂肪肝は1st hit直後の状態で、2nd hitを受ける前の単純性脂肪肝の状態と考えられる。そこで本研究では、2nd hitとしてリポ多糖(LPS)を投与した場合のコール酸摂取における炎症の状態を評価した。病態変化を評価した。Fischer344ラットにAIN-93Gに準拠した飼料を対照飼料、あるいはスクロースの一部を0.05%コール酸に置き換えたコール酸添加飼料のいずれかを与えた。試験飼料摂取から9週間後にin vivoでの消化管透過性を評価するため非吸収性マーカーであるCr-EDTAを経口投与し、翌日までの尿中Cr排泄を消化管透過性の指標とした。10週間後にはLPSを皮下に投与、投与6時間後に解剖を行った。
2: おおむね順調に進展している
これまでに確立した代謝疾患の未病モデルであるコール酸摂取ラットでは、単純性脂肪肝を発症するものの、肝臓での炎症や繊維化などの悪化した病態は観察されていなかった。そこで、この状態からの肝疾患の悪化が生じるかを観察するため、リポ多糖を投与する実験を行なったところ、コール酸を摂取した場合にのみ、肝傷害マーカーであるAST・ALTが著しく増加することを見出した。この結果は、コール酸摂取ラットが、明確な疾患は見られないもののその後悪性化する可能性が高い、いわゆる「未病」状態であることを強く示唆している。加齢や高脂肪食摂取で生じる胆汁酸代謝の軽微な変化が代謝疾患の温床になることを示す極めて重要な知見である。この研究をさらに推し進めることで、未病から疾患に至る経路の解明、ひいてはその予防・治療に至る道筋が解明されると期待される。
先行研究においてWKAH系統のラットで観察された透過性の亢進は見られなかった。Fischer344とWKAHでの肝臓及び消化管内容物における胆汁酸組成の網羅的解析により、系統間での胆汁酸代謝が大きく異なることを見出しており、このことが消化管透過性に影響を及ぼすことが示唆された。一方、LPS投与により肝障害マーカーであるASL・ALTがコール酸摂取ラットでのみ著明に増大した。この結果はコール酸の摂取が肝臓での炎症を著しく悪化させることを示唆している。しかし、炎症性サイトカインであるIL-6 の血中濃度に群間差は観察されなかった。また、血中アディポネクチン濃度もコール酸摂取により減少し、さらにLPS添加により有意に減少した。現在、そのメカニズムを明らかにするため、血中パラメータを含め肝臓での炎症関連遺伝子発現や繊維化の状態を分析している。
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British Journal of Nutrition
巻: 116 ページ: 603-610
10.1017/S0007114516002270.