研究課題
採用期間一年目の本年度は、X線自由電子レーザー(XFEL)照射に誘起される分子中の電荷移動過程の解明を目指して以下の項目を行った。対象としたヨウ素含有分子は、解析の基盤を確立するために比較的簡素な構造であるジヨードメタンを選定した。始めに、大学で保有するフェムト秒レーザーを用いてポンプ-プローブ測定を行った。本測定により、解離生成するヨウ素分子イオンの収量に変化が見られ対象分子が300フェムト秒程度の時定数を持つ分子運動を行うことが明らかとなった。これにより、SACLAでのXFELを用いた測定の際に大きな問題となる観察対象とする現象の時間スケール、すなわちXFELとフェムト秒レーザーの遅延時間幅を決めることができた。続いて、SACLAを用いて対象分子にXFELを照射し、多価分子イオンの生成に引き続くクーロン爆発の結果生じるイオンフラグメントを検出した。この測定ではXFELのみを照射しているが、これにより高い電荷を持った分子イオンが生成し、クーロン爆発してイオンフラグメントが生じることを見出した。その結果、これまで開発してきたイオン運動量多重同時計測法をこの分子にも適用可能であることを示し、各イオンフラグメントの三次元運動量を測定することに成功した。以上で得られた成果を学術論文誌に投稿した。最後に、本課題の最も大きな特色であるSACLAを用いた時間分解測定を行う上で、最も大きな技術的課題となるXFELと光学レーザーの時間的ばらつきの問題の克服を目指した。本年度は施設によって測定されたタイミングモニターの画像データを処理し、信号解析を行うプログラムを開発し、SACLAで行われた実際のビームタイムにおいて稼動させ、その性能を試験した。その結果、開発したプログラムによりXFELと光学レーザーの時間的ばらつきの測定データをビームタイム中に即時解析が可能であることを検証した。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、課題申請時に立案した研究計画に基づき、採用初年度に達するべき以下の成果を挙げた。始めに、X線自由電子レーザーSACLAでの時間分解測定に向け、実験室でフェムト秒レーザーを用いた予備測定を行った。これにより、観測対象とする分子運動の時間スケールを明らかにし、SACLAでの実際の時間分解測定を行う際の測定条件の設定に明確な指針を得た。次いで、SACLAを用いて、X線パルスのみを分子に照射した実験を遂行し、解離フラグメントイオンの価数や運動エネルギー分布を測定し、時間分解測定に必要となる知見を整えた。さらに理論グループとの共同研究により、この測定で得られたデータを解析し、学術論文として投稿したことで当初の研究計画以上の成果を得た。さらに、SACLAでの時間分解測定の実施に向けて最大の課題となるX線自由電子レーザーと同期フェムト秒レーザーのばらつきを即時解析するシステムの構築を行った。SACLAの一般ユーザーに先立ち、施設が準備したばらつきを測定する共用装置と持ち込んだ実験系を同期し、X線自由電子レーザーと同期フェムト秒レーザーのばらつきを即時解析するシステムを構築し、その運用試験を終えている。以上の成果から、次年度はSACLAを用いた時間分解測定の実現が大いに期待できる。
次年度は、本年度得られた成果をもとに、以下の項目を実施する。始めに、本年度にSACLAを用いて行った実験で得られたデータを解析するために開発したプログラムを時間分解測定で得られたデータの解析に拡張する。これについては、実験室で行ったフェムト秒レーザーを用いた予備実験に使用した解析プログラムをベースとし、本年度から既に取り組んでおり、計画通り次年度前半には開発を完了する見通しである。続いて、SACLAでの時間分解測定の対象分子については、本年度測定を行ったジヨードメタン分子によって計画以上のデータを取得しているので、継続してこの分子を測定対象とする。本年度にSACLAで行ったジヨードメタンのクーロン爆発によって生成したイオンフラグメントの三次元運動量多重同時計測の結果を解析し、理論計算との比較を通して解離する親分子イオンの価数分布や、生成イオンフラグメントの価数及び運動エネルギー分布が得られている。以上の測定結果から得られた情報をもとに時間分解測定の実現に向けた測定条件の決定と準備を行い、SACLAでの時間分解測定に臨む。年度後半には、得られたデータの解析を行い、初年度に得られたX線自由電子レーザーのみを照射して得られるデータをもとに結果を解釈し、学術論文として発表する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 4件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件)
Physical Review Letters
巻: 118 ページ: 033202
https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.118.033202
Nature Communications
巻: 8 ページ: 14277
10.1038/ncomms14277
巻: 117 ページ: 276806
https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.117.276806
Journal of Physics B: Atomic, Molecular and Optical Physics
巻: 49 ページ: 165102
http://iopscience.iop.org/0953-4075/49/16/165102
Faraday Discussions
巻: 194 ページ: 621-638
10.1039/C6FD00084C