本年度は、昨年開発した測定システムの精度向上、ならびに実時間レンダリングでの利用を目的にして研究を進めた。本年度の研究では、光の散乱を表すモデル自体の見直しを行った。通常、より複雑な計算モデルを用いれば、その計算にかかる時間やメモリ使用量などは増大してしまい、この研究の当初の目的である効率的な光学特性の取得に反する。本研究では、畳み込み積分が計算機での効率的な計算に有利であることに注目し、物理的な散乱現象を記述する方程式からガウス関数での畳み込みと、画像の画素同士の積だけからなる計算モデルを導出した。ガウス関数での畳み込みと画像の画素同士の積は、いずれも並列計算機を用いて効率的に計算できるため、この計算モデルは、従来モデルと同等の計算速度で、物理現象に即した非等方性の散乱を表現できる。また、この新しい表現法は、その計算モデル自体が計算効率の良いモデルであるため、光学特性の推定だけでなく、測定済みの物理パラメータを用いた映像生成の際にも役立つ。従来の実時間レンダリング法では、非等方性の散乱を等方性の散乱で近似して計算効率を向上していたが、上記の通り、提案の表現モデルは非等方性の散乱を考慮しながらも、実応用で標準的に用いられるFull HDの解像度(1920×1080ピクセル)の映像を、それに十分な計算速度とされる秒間120フレームで描画できる。この成果は現在、国際論文誌への投稿を準備中である。加えて、静止画像に映り込んだ半透明材質の質感を別の静止画像ならびに動画像中の物体に転写する手法についても共同研究を実施した。この手法は単純な画像処理のアルゴリズムの組み合わせのみで実現されるが、近年の深層学習モデルに基づく手法を大きく上回る品質で半透明材質の質感を転写できる。この成果は関係分野における代表的な国際会議であるComputer Graphics International 2019にて発表予定である。
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