研究課題/領域番号 |
16J02290
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
前田 和輝 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 根冠 / 細胞壁 / ムシレージ / ペクチン / 細胞脱離 |
研究実績の概要 |
植物の根端は静止中心を中心に様々な幹細胞が存在しており、絶えず細胞分裂と細胞伸長を繰り返している。その結果、植物の根は伸長することができる。しかし、根端分裂組織より先端に存在する根冠は一定のサイズを保ったままである。これは根冠細胞が最外層に達すると脱離することによって調整されているためであるが、根冠最外層細胞の脱離機構や、脱離することの必要性については不明な点が多い。筆者はこれまでに報告された組織特異的な公開マイクロアレイデータから根冠特異的に発現する遺伝子のリストを作成し、その中から脱離に機能すると思われる因子の解析を行った。中でも、細胞の接着や脱離に重要であることが知られている細胞壁の主要成分の一つであるペクチンの修飾酵素PME11に注目して解析を行った。筆者はPME11を欠損した変異体pme11を作出し、根冠最外層細胞の脱離が野生型と比べて正常に行われないことを観察した。また、pme11変異体において細胞脱離が異常である原因は根冠ムシレージ の放出ができていないことと密接に関連していることを示した。根冠最外層細胞はムシレージと呼ばれるペクチンを主成分とする多糖を分泌することが知られている。我々はこのムシレージを簡易に観察する手法を発見し、シロイヌナズナにおいてムシレージがどのように蓄積しているのかを明らかとした。さらに、様々な観察手法を用いることで細胞脱離とムシレージの間には密接な関係があることを示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
私はまず、組織特異的な公開マイクロアレイデータから根冠特異的に発現する遺伝子のリストを作成し、その中から 脱離に機能すると思われる因子の解析を行った。その中から、細胞接着や脱離に重要なペクチンに注目し、PME11という酵素が根冠細胞の脱離に重要であることを見出した。これまでの解析では、PME11がどのようにして細胞脱離に重要であるのかは不明であったが、最近の解析によってPME11変異体では根冠ムシレージ の放出が異常となることで、細胞脱離が起きなくなるのではないか、というデータを得ることができた。根冠ムシレージという物質は先行研究において他の植物では多く分泌されていることが知られているが、モデル植物であるシロイヌナズナでは非常に量が少ないため、これまでに解析された例はほとんどなかった。我々はシロイヌナズナの根冠ムシレージ をPI染色によって簡易に観察できることを発見した。さらに、樹脂包埋による切片を作出し細胞壁に対する抗体を用いて免疫染色などを行うことで根冠ムシレージが放出される際には細胞壁が劇的に変化していることを明らかにした。 また、この手法を用いることで、根冠最外層特異的な転写因子であるBEARSKINが根冠ムシレージ の生合成にも関与しているのではないかというデータを得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究において、ムシレージ の蓄積や分泌のメカニズムについてはある程度明らかになってきたが、まだまだ謎は残っている。ムシレージ が放出される際には細胞壁が二重になっている様子が観察されているが、それは新しく細胞壁が合成されたからなのか、それとも、細胞壁が分解されて二層に分かれたからなのかなどは依然として不明なままである。これらのことを解明するために、電子顕微鏡での解析や、根冠最外層特異的な転写因子であるBEARSKIN欠損変異体でムシレージ や細胞壁がどのように変化しているかなどの詳細な解析が必要であると考えている。 また、ムシレージ はこれまでの研究で植物にとって様々な役割を果たしていることが知られているが、それらのほとんどが遺伝学的な背景が明らかになっていないものばかりである。本研究ではモデル植物であるシロイヌナズナを用いてはじめて根冠ムシレージ を観察する手法を発見したことで、これまでには難しかった遺伝学を根冠ムシレージ の解析を行うことができると考えている。まずは、EMSなどの変異原処理を行った植物やさまざまなアクセッションに対してムシレージ の観察を行い、根冠ムシレージ に関わる遺伝子の探索を行う予定である。
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