研究課題/領域番号 |
16J02319
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
井田 大貴 東北大学, 大学院環境科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 走査型イオンコンダクタンス顕微鏡 / 電気化学計測 / 生細胞表面形状 |
研究実績の概要 |
細胞膜界面は、サブマイクロ~ナノメートルスケールのさまざまな微小構造による化学応答の場である。これらの応答は、ナノ形状と局所的な化学物質濃度が相互に関連し、ミリ秒~数十秒スケールで連続的に変化する。従って、細胞膜界面で起こる細胞機能を理解するためには、局所的な形状と化学物質を同時に計測する技術が不可欠である。本研究は、前年度に開発した高速走査型イオンコンダクタンス顕微鏡(SICM)を基盤技術とし、化学物質検出能を持つ高速ナノ電気化学顕微鏡の創成と、開発した顕微鏡を用いた細胞膜界面での化学応答の可視化を目的とする。本年度は、翌年度以降の測定を見据え、高速測定のための装置開発に重点を置いて研究した。 現在のSICMは倒立顕微鏡上に構築されるが、測定部が空間的に混雑するため位相差コンデンサーとの併用が困難であり、作業には一種の”慣れ”が必要であった。そこで、手動マニピュレータを自作し、可動面-接地面間にあった23mm以上の厚みを、たった3mmに縮小した。またステージデザインを練り直し、位相差・微分干渉ユニットとの同時使用を可能にした。これにより、SICM測定と同時に、より鮮明な光学顕微鏡像が観察でき、プローブの位置合わせなどの作業効率も大幅に向上した。 続いて、更なる高速化を目指し、SICMに特化した、ナノピペット制御用の高速ステージの開発に着手した。現在は、COMSOLを用いたシミュレーションにより、ステージモデルの周波数特性や変化量を算出している。この高速ステージが実現すれば、従来のステージと比較して、静電容量を1/10以下に減少できる。 最後に、蛍光プローブが修飾された薬剤を添加した際の細胞応答を観察するため、共焦点顕微鏡上に高速SICMを構築した。これにより、局所領域の形状と共焦点顕微鏡による蛍光像が同時に取得可能となり、細胞の多角的な評価が可能になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、研究計画調書に従い、高速ナノ電気化学顕微鏡の創成のための自作マニピュレータや高速ピエゾステージなどの要素技術開発を行った。その結果、包括的な装置デザインにより測定部周辺は簡潔になり、位相差・微分干渉コンデンサーとの同時使用を可能にするとともに、測定効率が格段に向上した。高速ステージは実装まで至らなかったものの、COMSOLを用いたシミュレーションにより設計中であり、近く実現が見込まれる。 また、計測と同時に鮮明な光学顕微鏡像を取得するため、開発した要素技術を用いて共焦点顕微鏡上に高速走査型イオンコンダクタンス顕微鏡(SICM)を構築した。これは、計画調書作成時には想定されていなかった進展であり、膜界面で起こる生命機能の理解をさらに容易にし、本装置を使用して可視化できる試料の幅を広げた。 さらに、顕微鏡を用いた測定に関しても、膜透過性ペプチドの細胞内輸送に関する共同研究を行い、ピレンブチレートを加えた際の細胞膜の形状変化を明らかにした。 以上より、本研究は、高速ナノ電気化学顕微鏡の創成と、細胞膜界面の局所変化測定という研究目的に向けて、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、前年度に引き続き装置開発を行いながら、電気化学顕微鏡の強みを活かせる試料を対象に測定を行う。 第一目標には、現在進行中である、膜透過性ペプチドの細胞内輸送に関する共同研究の進展を掲げる。平成28年度は透過性を向上する試薬を加えた際の細胞膜形状の変化を可視化した。翌年度は、透過性向上試薬を添加後に膜透過性ペプチドを加え、前年度に立ち上げた共焦点顕微鏡・高速SICMを用いて膜透過に起因する形状変化とペプチドの細胞内動態を結びつける。これにより、アルギニンペプチド添加時に見られるマルチラメラ構造のコブについて、形成機構を明らかにすることを目指す。 また、現在シミュレーション中の自作高速ピエゾステージを電気化学顕微鏡に実装する。従来のピエゾステージは共振周波数を高めるために、発生力と静電容量が大きいピエゾ素子を用いており、立ち上がり速度が遅いという欠点があった。現在開発中のステージはY方向のピエゾの静電容量を犠牲にする変わり、X方向のピエゾの静電容量が1/10に減少し、共振周波数と立ち上がり速度の両立が可能である。このステージを実装し、装置の更なる高速化・高効率化を目指す。 最後に、前年度立ち上げた共焦点顕微鏡・高速SICMを用い、膜表面の変化が起きた際のERMタンパク質の細胞内動態、及びそれらをノックダウンした際の細胞形状の変化を可視化する。 なお、測定試料は申請時点の研究計画調書から一部変更があるが、電気化学顕微鏡の利点・特徴をさらに活用できるサンプルに修正した。
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