研究課題/領域番号 |
16J02332
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
桂川 美穂 東京大学, 大学院理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | MM-SNRs / CTB1 / ミュオン特性X線 |
研究実績の概要 |
Mixed morphology型超新星残骸(MM-SNRs)は、電波ではシェル状に明るく、X線では中心集中した構造を持つ。多くのMM-SNRsで近傍に分子雲・原子雲が確認されており、MM-SNRs形成過程には周辺環境が大きく影響すると考えられているが、そのメカニズムは明らかになっていない。いくつかのMM-SNRsでは、再結合が優勢な(過電離)プラズマの存在が確認されている。CTB1 はMM-SNRsの一つで、南西部に電波シェルに沿うように原子雲が存在し、北東部はシェルが破れてX線放射が吹き出すような特異な形状をしているSNRである。CTB1はあすか衛星やChandra衛星で観測されており、電子温度0.2-0.3 keVの電離平衡プラズマであると報告されている。 我々は、すざく衛星によるCTB1の観測データの解析を行い、北東部は電子温度0.3 keV程度の電離平衡プラズマ、南西部は電子温度0.15-0.2 keV 程度の過電離プラズマであることがわかった。さらに、南東部の過電離プラズマは原子雲に近い側の領域の方が電子温度は低く、冷却時間が長い。この結果から、CTB1は原子雲と衝突した場所から冷やされ、徐々に内側へと冷却が進んでいると考えられ、分子雲・原子雲との衝突によって急激に電子冷却が起こり再結合が優勢となるという過電離プラズマ形成シナリオの一つを支持している。 一方で、我々はASTRO-H衛星にも搭載された硬X線イメージャーの両面ストリップ型テルル化カドミウム半導体検出器(CdTe-DSD)の性能検証を進めてきた。その中で、宇宙観測用に開発を進めてきた高性能な検出器が地上実験でも応用可能であることがわかった。その一つとして、ミュオン特性X線を用いた非破壊分析用の撮像システムを開発し、J-PARCの負ミュオンビームを用いてBN, LiFのイメージング実験を行った。その結果、ミュオン特性X線を検出し、世界で初めてのミュオン特性X線に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は、CTB1のX線天文衛星「すざく」の観測データの解析を行い、領域によって異なるプラズマ状態であることを明らかにした。本研究は、これまでの観測ではわからなかったCTB1のプラズマ状態を明らかにしただけでなく、MM-SNRsの統計的な研究にも貢献している。これらの結果は現在論文を執筆中である。また、先行研究で存在が示唆されているハード成分についても解析を行い、べき2程度のpower lawが存在することがわかった。これを説明する物理描像については現在検討中である。 また、X線スペクトルから爆発した親星の推定を試みる数値流体計算コードの開発も進めている。親星の爆発後数千秒の元素分布モデルと爆発のエネルギー、親星の質量、密度、圧力、速度などを初期条件にして、時間発展するプラズマの密度、温度、電離状態をシミュレーションしている。プラズマのクーロン相互作用や、イオン化・再結合の割合計算に加え、放射冷却や熱伝導による冷却を計算に取り入れ、現在はその計算結果の妥当性を検討中である。 一方で、我々は両面ストリップ型テルル化カドミウム半導体検出器(CdTe-DSD)の性能評価と地上実験への応用も進めている。その一つとして、私は、ミュオン特性X線を用いた非破壊分析用の撮像システムを開発し、J-PARCの負ミュオンビームを用いてBN, LiFのイメージング実験を行った。その結果、ミュオン特性X線を検出し、世界で初めてのュオン特性X線に成功した。この結果は、論文として報告している。
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今後の研究の推進方策 |
CTB1のプラズマ状態の空間分布を詳細に調べたので、今後はこの結果を学会誌へ発表する準備を進める。すでに執筆中で、数カ月以内には執筆を終える予定である。また、数値流体計算コードの開発は、現在は電離非平衡プラズマの電離状態を計算するコード、放射冷却や熱伝導による冷却を計算するコードを組み込んだので、今後はその妥当性を検討する。そして、周辺のガス雲の密度や温度、体積などのパラメーターを変えながら1次元シミュレーションを行い、過電離ポラズマの成因を探る。 一方で、CdTe-DSDの応用として行ったミュオン特性X線のイメージング実験では、世界初のLiからのミュオン特性X線のイメージングに成功したため、この結果を論文としてまとめて学会誌へ発表する。また、非破壊分析のための装置として確立するには、サンプルの定量性が重要なため、スペクトルとイメージの定量的な評価を行う。
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