研究課題/領域番号 |
16J02378
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
荒江 星拓 北海道大学, 大学院生命科学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | シロイヌナズナ / バイオマス / ポリA鎖 / 脱アデニル化酵素 / 転写後制御 / CCR4-NOT複合体 |
研究実績の概要 |
ポリA鎖はmRNAの保護構造であり,また近年ではポリA鎖長と翻訳効率に相関があることが報告されている。このことからポリA鎖長の制御は転写後制御の重要なステップであると見なすことができる。真核生物に広く保存されたポリA鎖の分解を行う脱アデニル化酵素複合体としてCCR4-NOT複合体があり,これは脱アデニル化酵素サブユニットとしてCCR4とCAF1を持っている。他の真核生物ではCCR4-NOT複合体と相互作用するRNA結合タンパク質が,CCR4とCAF1の標的mRNAの認識に働くことが知られている。シロイヌナズナの脱アデニル化酵素であるAtCCR4aおよびAtCCR4bの二重変異株(atccr4a/b変異株)ではエンドサイクルの亢進によってバイオマスの増大を示すが,その原因となる標的mRNAは明らかとなっていない。本研究ではatccr4a/b変異株が示すバイオマス増大の原因となる標的mRNAと,それを認識するRNA結合タンパク質を解明することを目的としている。 本年度はAtCCR4a/bがどのような転写後調節に関わっているのかを明らかにするために,野生型株とatccr4a/b変異株を用いて,mRNAの翻訳量を網羅的に測定するRibo-seqおよびmRNAの蓄積量を網羅的に測定するRNA-seqの予備実験とデータ解析を行なった。各遺伝子においてmRNAの翻訳量をmRNA蓄積量で割ることにより翻訳効率を算出できる。atccr4a/b変異株では標的mRNAのポリA鎖長が野生型株に比べ長くなることで,翻訳効率が上昇することが期待され,実際に変異株では野生型株に比べ翻訳効率が上昇した遺伝子が多くみられた。また,その中には複数のエンドサイクルの制御に関わる遺伝子が見つかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の実施を予定していた網羅的ポリA鎖長同定のための実験に関しては,新規の方法が報告された。その方法ではmRNAの3’-末端に付加するアダプターを改良することで,従来の方法では大きな問題であったrRNAの混入を大きく抑えることができ,検出の感度を上げることができる。また,実験にかかるコストを大幅に削減することができる。そのため実験方法を変更することにし新規の方法に基づいた予備実験を進めた。網羅的ポリA鎖長同定の実施が遅れるため,先んじて翻訳効率の網羅解析であるRibo-seqやRNA蓄積量の網羅解析であるRNA-seqを行った。予備的な段階ではあるが,全体的にatccr4a/b変異株では野生型株に比べて翻訳効率が上昇している遺伝子が多く見られ,その中にはエンドサイクルの亢進に働く遺伝子も含まれていた。AtCCR4a/bの欠損により標的遺伝子のポリA鎖の短縮ができなくなった為に,翻訳効率が上昇した可能性がある。 一方で, IP/MS解析によるAtCCR4a/bの相互作用因子の探索から見出されたPumilio RNA結合タンパク質,APUM5の解析を進めた。局在性解析からAPUM5はAtCCR4a/bと細胞質内のP-bodyに共局在することを明らかにした。また,先行研究で行われた遺伝学的解析から,APUM5は環境ストレス応答に関わっており,ストレス応答性遺伝子の発現を負に制御していると考えられている。APUM5による制御にAtCCR4a/bが関わっている可能性を検討するために,atccr4a/b変異株とapum5変異株で浸透圧ストレス応答を調べた。その結果,atccr4a/b変異株はapum5変異株と同様に浸透圧ストレス耐性を示すことが明らかとなった。これらの結果は,AtCCR4a/bとAPUM5が協同してストレス応答性遺伝子の発現制御に関わっていることを示唆する。
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今後の研究の推進方策 |
atccr4a/b変異株にみられるバイオマス増加の表現型は,エンドサイクルの亢進によるものと考えられる。この表現型に関わる可能性のあるAtCCR4a/bの標的遺伝子に関しては,当初は網羅的ポリA鎖長同定実験から候補遺伝子を見出す計画であったが,実験手法の難しさから実験系の立ち上げが遅れている。一方で,予備的に行われたRibo-seqとRNA-seq実験から,atccr4a/b変異株で翻訳効率が増加している遺伝子に,エンドサイクルの亢進に関わるものがあった。そこで新しいアプローチとして,今後はまずRibo-seqとRNA-seq実験の再現性を取り標的候補遺伝子を確定させ,それらのポリA鎖長を個別に測定して野生型株と変異株で比較することで標的遺伝子を同定する。また,同じ条件で生育した野生型株とatccr4a/b変異株サンプルを用いて,新規の網羅的ポリA鎖長同定実験であるmTAIL-seqも行う。予備的な実験から多くの遺伝子の翻訳効率が変異株で上昇していたことから,網羅解析の強みを生かしてポリA鎖長と翻訳効率との相関を明らかにしたい。また,mTAIL-seqで見いだされた標的遺伝子群に対して,発現パターンによるクラスタリングやGene Ontology解析等を行うことで,AtCCR4a/bの標的遺伝子の特色をつかむことができる。 IP/MS解析で見つかったAtCCR4a/bと相互作用するRNA結合タンパク質に関しては,予備的な段階ではあるがapum5変異株にバイオマス増大の傾向は見られないことから,引き続きAPUM5以外の候補遺伝子の遺伝学的及び生化学的解析を進めることによって,バイオマスの増大に関わるRNA結合タンパク質を明らかにする。
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