本年度は,細胞サイズ分子ロボット界面における分子デバイスの集積化および運動の自律制御のための信号分子増幅回路の実装に向けた研究を行った. 分子デバイスの集積化技術の開発に向けて,前年度に開発したアメーバ型分子ロボットの筐体が相分離リポソームであることを踏まえ,相分離脂質膜上におけるDNAオリガミ構造の自己集合特性について調査した.成果として,相分離膜上のDNAオリガミは脂質の相およびイオン強度に依存した自己集合特性を示すことが明らかとなった.この知見は,外部環境に応答して膜面上で自己組織化する分子デバイス開発のための要素技術として応用でき,分子ロボットの自律的な動作決定や膜面上の分子配置の制御を実現する上で重要な成果である.この成果について学術論文として報告した. また,信号増幅回路の実装においても成果があった.従来のリポソーム内部でのDNA増幅反応は高温域での人為的な温度サイクルを必要とするものであり,分子ロボットの構成要素への熱損傷や反応が自律的に進まないなどの課題があった.本年度の成果として,生理学的等温条件で特定のDNA分子を増幅する機構を細胞サイズリポソームに実装することに成功した.さらに,その増幅挙動が試験管内とリポソーム内との間で大きく異なることを明らかとした.これは,分子ロボットの自律制御を実現する上で有用な知見であり,この成果について,発表賞を受賞するとともに,現在学術論文として投稿するための準備を行っている. 運動方向の規定については,計画時にはマイクロビーズを用いることを想定していたが,ビーズの封入率の個体差が大きく,困難であることが明らかとなった.一方,本年度に開発したDNAナノ構造の集積化技術は,人工機能性膜ドメインの構築へも応用できる成果である.今後,この成果をもとに分子ロボットの局所的な変形・方向性を持った運動へと発展させたいと考えている.
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