研究課題/領域番号 |
16J02422
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
大門 俊介 東北大学, 大学院理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 熱イメージング測定 / スピン流 / 熱流スピン流変換 |
研究実績の概要 |
本研究の最終目的は、静磁相互作用に立脚した非相反なスピン現象を開拓・解明し、新たな科学体系を構築することである。目的遂行の初期段階として、非相反現象の測定技術を確立することが重要課題となる。そこで本年度は、動的サーモグラフィ法を用いた熱イメージング技術のシステム構築を行い、スピン流由来の熱生成現象の可視化に成功した。この成果は、動的サーモグラフィ法が非相反スピン現象の観測手法となり得ることを強く支持する結果である。以下ではこれらの研究成果の詳細を記載する。 1. 動的サーモグラフィ法を用いた熱イメージング技術の確立 本研究では、非相反物性を視覚的に捉えられる技術として、通常のサーモグラフィ法にロックイン手法を組み合わせた動的サーモグラフィ法に着目した。本手法では、測定対象に交流の入力信号を与え、入力と同周期で振動する温度変化のみを取り出すことで、0.01ミリケルビンの極めて高い温度分解能を実現することに成功した。この結果は、高感度な非相反物性測定を実現するための重要な成果である。 2. 熱流-スピン流変換現象の熱イメージング測定の実現 非相反スピン物性を測定するためには、スピン流に付随した微小な熱効果を検出できることが必要条件となる。そこで上述の動的サーモグラフィ法を用いて、スピン流による熱流生成現象であるスピンペルチェ効果の検出を試み、明瞭な温度変化の観測に成功した。観測された温度変化はスピンペルチェ効果の対称性を満たしており、様々な試料構造で普遍的に現れる現象であることを示した。さらに、系統的な測定によりスピンペルチェ効果特有の温度分布が存在することを明らかにした。これらの成果は、熱流-スピン流変換現象の理解に新たな知見を与えたとして、国際科学雑誌Nature Communicationsに掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の研究により、動的サーモグラフィ法による高感度熱イメージング技術を確立し、スピン流注入に伴う熱生成現象を可視化することに成功した。これらの成果は、非相反スピン現象の新たな観測手法を提示すると共に、スピン流由来の微小な温度変化が観測可能であることを実証する結果であり、来年度以降の研究が迅速に遂行可能となった。さらに、スピンペルチェ効果の系統的な測定により、従来知られていなかったスピン流特有の熱分布が明らかになった。この実験事実は熱流-スピン流変換現象の発現原理を解明する上で重要な指針となる。以上の理由から、当初の研究計画以上の成果が得られていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、強磁性体中に現れる人工超構造に由来した非相反スピン波の観測を試みる。人工超構造の作成にはレーザー微細加工法を用い、良く定義された超構造を強磁性体に導入する。非相反スピン波の観測には本年度確立した動的サーモグラフィ法を利用し、非相反性に起因した非対称な熱分布の観測を試みる。これにより、超構造に由来した非相反効果の存在を示し、非相反スピントロニクス構築の端緒を開く。
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