本研究の目的は、静磁相互作用に立脚した非相反スピン波を観測し、非相反スピン科学を体系的に構築することである。前年度の研究では動的サーモグラフィ法を用いたスピン波熱輸送現象の熱可視化測定に成功した。この成果を発展させ、本年度はスピン波熱輸送物性の開拓を行った。また、磁気光学イメージングを用いた新たなスピン波分光手法の開発にも携わり、スピン波の直接観測に成功した。以下ではこれらの成果の詳細を記載する。 1. 動的サーモグラフィ法を用いたスピン波熱輸送現象の開拓 昨年度確立した動的サーモグラフィ法による熱可視化技術を利用し、物質・材料研究機構の内田健一グループと共同で、スピン波に伴う熱輸送現象であるスピンペルチェ効果の系統的測定を行った。本実験により、スピンペルチェ効果が様々な金属と磁性体の組み合わせで発現することを実証した。また、その熱生成の原理は角運動量キャリアのエネルギー保存則と角運動量保存則に由来することを見出した。この成果によりスピン波熱輸送現象の理解が進展した。 2. 磁気光学イメージングを用いたスピン波分光と数値解析 非相反スピン波の直接観測を実現可能な新たなスピン波測定法の開発に携わり、磁気光学イメージングを用いた新規スピン波分光手法を確立した。本研究では、磁性体の磁化運動を磁気ファラデー効果とポンププローブ法を組み合わせることで測定し、測定結果をフーリエ解析することでスピン波分散関係の直接観測を実現した。当研究室の橋本佑介博士と共同で行われた本研究の中で、私は主に数値解析を担当し、実験的に得られた結果が従来良く知られた静磁スピン波の分散関係と完全に一致することを示した。スピン波の分散関係は非相反性を含めた全てのスピン波の情報を有するため、本測定手法の確立は非相反スピン波直接観測へ向けた重要な鍵となる。
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