研究課題/領域番号 |
16J02485
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
武見 充晃 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 運動学習 / 運動記憶 / 経頭蓋微弱電流刺激 / 経頭蓋磁気刺激 / 皮質運動野 |
研究実績の概要 |
本研究の目標は、複数の運動課題を効率的に学習するための課題順序を理論的に構成する方法を、数理モデルと行動実験によって明らかにすることである。H28年度の主たる目標は、①運動学習プロセスの予備的な数理モデルを構築することと、②運動学習の痕跡を脳活動レベルで評価するための実験手技を修得することであった。 ①運動学習プロセスの予備的な数理モデルの構築に関しては、あまり進展が得られなかったが、その一方で②運動学習の痕跡を脳活動レベルで評価するための実験手技の修得は、コペンハーゲン大学への1年間の海外留学を経て、期待以上の進展を得られることができた。海外渡航先研究機関では、定位脳刺激装置と経頭蓋局所磁気刺激法を用いて、ヒト皮質運動野の可塑性をミリメートル単位で評価できる最新の実験手技が開発されていたので、この手技を一通り学んだ。この手法はH29年度以降、私の研究課題の最終目標の1つである、運動学習の痕跡を脳活動レベルで精緻に評価することに資すると考えられる。加えて、当初予定をしていなかった、経頭蓋微弱電流刺激による実験を並行して行った。経頭蓋微弱電流刺激は、刺激された脳領域の活動を変調することができる。したがって、ある脳領域(例えば一次運動野)への刺激が学習様態(例えば学習記憶の定着)に影響が及ぼした場合、これは脳神経活動と行動パターンの間に因果関係が存在する証拠となる。従来の神経科学研究の多くが、計測された脳活動と行動データから両者の相関関係の説明に留まってきたことを思えば、脳刺激による活動変調はヒト神経科学研究にパラダイムシフトをもたらす可能性がある。なお留学先での研究成果は、現在査読付き国際誌に共著者として投稿中である他、H29年度中には筆頭著者として査読付き国際誌に投稿する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
運動課題を効率的に学習するための神経メカニズムを、数理モデル・行動実験・脳活動様態の3つの側面から明らかにすることを目指す本研究課題において不可欠な、精緻な脳機能評価法の修得に関しては期待通りの進展が見られた。また神経活動と行動パターンの因果関係を明らかにできる、経頭蓋微弱電流刺激を今後研究課題に適用する目処がたったことは、望外の進展であった。加えて特筆すべき成果として、被験者20人で微弱電流刺激に関する実験が完了し、現在その内容を投稿準備中である点があげられる。一方で肝心の数理モデルの構築に関しては遅れが見られるが、その遅れを取り戻すために受け入れ研究者と十分なディスカッションを行い、行動実験の計画を変更することとした。経頭蓋微弱電流刺激を組み合わせた新たな実験計画は、学習プロセスと脳機能解剖学との因果律を明らかにすることを目指した、世界でも類を見ない極めて独創的な研究となることが予想される。全体として、現在までの研究進捗状況はおおむね順調であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
H29年度の目標は、運動課題学習中の被験者に経頭蓋微弱電流刺激を与えた結果、学習プロセスがどのように変化するのかを検討して、運動学習と脳機能解剖学との因果律を明らかにすることである。なお遅れが見られている運動学習プロセスの予備的な数理モデルの構築に関しては、以下のとおりに研究計画を変更することで対応する予定である。まず、行動実験を数理モデルの構築に優先して開始する。行動実験のプロトコルに関しては、先行研究に基づいて仮説を立て、経頭蓋微弱電流刺激を使用する内容とした。その後、年度当初より実施する行動実験で計測されたデータを用いて、数理モデルの構築に取り組む。結果、精緻な脳機能評価法(経頭蓋磁気刺激)によって運動学習の神経実態が明らかになるとともに、行動データから導かれた数理モデルによって学習プロセスの計算論的理解がなされる。加えて経頭蓋微弱電流刺激による脳機能変調が、計測された行動データと脳活動データ、すなわち学習プロセスと脳機能解剖学との因果律に関する証拠を提供する。 行動実験の結果は、国内研究会(モーターコントロール研究会)での発表を経て、同一年度中の英文原著論文としての投稿を計画している。また並行して、コペンハーゲン大学を2週間×2回程度訪問し、脳活動の評価データに対するディスカッションと、実験結果に応じて新たに必要とされる実験手技やデータ解析方法を適宜修得する。
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