平成30年度は、前年度に引続きソーレー効果(温度勾配を駆動力とする物質輸送現象)を利用した光学的物質輸送センシング技術「ソーレー強制レイリー散乱法」の開発を進め、以下のような成果を得た。 (1)構造が異なる電解質膜内のメタノール水溶液拡散係数センシング: 直接メタノール型燃料電池で重要と考えられる高分子電解質膜内メタノール水溶液の物質拡散係数の測定のため、物質輸送の励起に赤外光を用いる赤外ソーレー強制レイリー散乱法の開発を行ってきたが、これまで用いていた電解質膜であるNafionに加えて、構造が異なる電解質膜であるAquivionを用い、膜内物質輸送の違いが評価されるか検討を行った。2種類の電解質膜をメタノール水溶液に湿潤させ、膜内水溶液の拡散係数測定を行った結果、Aquivion膜内の拡散係数がより大きく物質拡散の自由度が高いことが明らかになった。 (2)赤外ソーレー強制レイリー散乱法によるソーレー係数測定の妥当性評価: これまで赤外ソーレー強制レイリー散乱法を電解質膜内水溶液の物質拡散係数測定技術として開発してきたが、物質拡散係数に加えて水溶液系のソーレー係数が測定可能かどうか検討した。比較可能なソーレー係数の値が存在するエタノール水溶液について信号を取得し、解析を行ったところ、得られた物質拡散係数とソーレー係数は他グループによる測定値とよく一致し、その妥当性が確認できた。 (3)多波長赤外ソーレー強制レイリー散乱法の提案: 赤外ソーレー強制レイリー散乱法に、屈折率の波長依存性を利用する複数波長検出技術を組み合わせることができれば、多成分水溶液系のソーレー係数の測定が可能になると考えられる。この実現に向けて、観察用レーザーのラマン-ナス回折を利用する赤外ソーレー強制レイリー散乱法の測定システムに、複数の観察用レーザーを組み込むための光学系デザインについて検討した。
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