研究課題/領域番号 |
16J02555
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
倉持 達司 筑波大学, 数理物質科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | ポリオキソメタレート / ルテニウム / ハイブリッドPOM / 触媒 / 二酸化炭素 / 電気化学 |
研究実績の概要 |
光増感能や触媒能をもつ金属錯体とポリオキソメタレート(POM)を共有結合によって連結したハイブリッドPOMは、多電子貯蔵能と光増感能や触媒能を併せ持つ化合物群である。光増感部位をもつハイブリッドPOMの光誘起電子移動によって生じる電荷分離状態の生成過程はMarcusの正常領域、電荷再結合過程は逆転領域にあることが示唆されている。本研究では、ハイブリッドPOMの酸化還元電位を適切に調節することによる電荷分離状態の長寿命化、および高効率な光・電解触媒の開発を目的とする。本年度は、錯体部位にルテニウム(II)ターピリジル・ビピリジル錯体([Ru(tpy-PO3H2)(bpy)Cl]+、POM部位にDawson型のタングステン17核POMをもちいたハイブリッドPOMの二酸化炭素還元の電解触媒能と電荷分離状態の速度論の考察を行った。 二酸化炭素雰囲気下のサイクリックボルタモグラム(CV)を測定すると、-1.50 V(vs. NHE)に二酸化炭素還元由来の触媒電流を示した。この溶液に酢酸を滴下していくと、-1.50 Vのピークトップは正電位にシフトした。これはプロトンアシストによる効果であると考えられ、さらに電解によって一酸化炭素を生成していることが確認され、その効率は酢酸を添加することにより上昇した。 次に電荷分離状態の生成について、各種分光化学的測定を行った。ルテニウム(II)単核錯体で観測されるリン光はハイブリッド化により消光され、電荷分離状態の生成が示唆された。フェムト秒過渡吸収スペクトルの測定結果、電荷分離状態の生成速度定数、電荷再結合の速度定数がそれぞれ見積もられ、この値を元にMarcusプロットを作成すると、電荷分離過程はMarcusの正常領域、電荷再結合過程は逆転領域に存在し、再配列エネルギーは0.63 eV、電子的相互作用は67.0 cm-1であると見積もられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ハイブリッドPOMの電気化学的測定から、この化合物の特徴である多電子酸化還元触媒能を明らかにした。また、プロトン源として酢酸を添加した条件における二酸化炭素還元反応を行うと、反応効率の向上と生成物の選択性の向上が確認された。これは当研究の目的である金属錯体とPOMのハイブリッド化による相乗効果の発現であり、一定の研究成果を挙げられたものと考えられる。また、分光化学的測定からハイブリッドPOMの電荷分離生成における速度論的情報を概算的ではあるが得ることができたことから、今後合成する化合物の電荷分離状態に関する情報の予測につながると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでにハイブリッドPOMの二酸化炭素還元における電気化学的触媒活性、電荷分離状態の生成とその速度論的情報を明らかにしてきた。今後は、ルテニウム錯体部位の酸化還元電位の調節による電荷分離状態の長寿命化の達成を目標とする。具体的には、ルテニウム(II)ターピリジル・ビピリジル錯体([Ru(tpy-PO3H2)(bpy)Cl]+)のビピリジル配位子に電子供与性の置換基を導入したり、配位している塩化物イオンを他の配位子(シアン化物イオン、チオシアン酸イオン、溶媒分子など)に変えることで行う予定である。このように複数の種類の化合物を合成することでハイブリッドPOMにおける正確なMarcusプロットを得ることができ、電荷分離状態に関する知見を詳細に得ることができると考えられる。
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