金属錯体とポリオキソメタレート(POM)を共有結合によって連結したハイブリッドPOMは、多電子貯蔵能をもっており、光増感能や触媒能をもつ金属錯体と組み合わせることで、これらの機能を併せ持つ化合物を設計できる。本研究では、新たに電子ドナー部位、光増感部位、電子アクセプター部位をもつ三元系ハイブリッドPOMを新規合成し、電荷分離状態生成に関する知見を得た。 電子ドナー部位にトリフェニルアミン部位をもち、光増感部位としてイリジウム(III)ビスターピリジル錯体をもつ二元系錯体は緑色光を吸収し、TPA部位に正電荷、イリジウムビスターピリジル錯体部位に負電荷を帯びる電荷分離状態が生成した。532 nmの励起光照射後、2ピコ秒、20ピコ秒の過渡吸収スペクトルをそれぞれ測定した結果、750 nm付近に吸収の立ち上がりが観測された。これはTPAが酸化されたTPAラジカルカチオンの吸収である。750 nmにおける吸収の時間変化を観測した結果、この吸収は時定数2 ps、220 psで減衰した。以上の結果から、532 nm励起によりIr-TPA錯体はTPA部位に正電荷、イリジウムビスターピリジル錯体部位に負電荷を帯びた電荷分離状態が生成していることが確認された。 さらに二元系錯体に、電子アクセプター部位としてWells-Dawson型のタングステン17核POMを結合させ、新規三元系ハイブリッドPOMを合成した。緑色光照射すると、TPA部位に正電荷、POM部位に負電荷を帯びる電荷分離状態の生成が過渡吸収分光により示唆された。TPAラジカルカチオンの吸収の減衰関数の解析から、電荷分離状態の寿命は750 ps程度であると見積もられた。昨年度、合成したRuハイブリッドPOMに電荷分離状態は100 ps程度であり、今年度合成した三元系イリジウムハイブリッドPOMの長寿命化という目的を達成できた。
|