栽培イネ(Oryza sativa)と野生イネ(O. longistaminata)の種間交雑を行った場合に、胚乳発生で見られる生殖的隔離の分子機構を明らかにすることを目的としている。これまでの研究から、倍数性を操作して種間交雑を行うことで、雑種胚乳が正常に発生し、生殖的隔離を打破できることを明らかにしている。そこで、隔離のある組合せと、打破される組合せから得られた雑種胚乳におけるトランスクリプトームの比較、特に胚乳に特徴的なインプリント遺伝子に着目した解析を行い、胚乳における生殖的隔離の分子機構の推定を行った。 隔離のある組合せでは、本来は片方の対立遺伝子からのみ発現するインプリント遺伝子が、両方の対立遺伝子から発現していた。一方、打破される組合せでは、片方の対立遺伝子からのみ発現するインプリント遺伝子が多く見られた。更に、通常の遺伝子であっても、隔離のある組合せでは、片方の対立遺伝子からのみ発現していたのに対し、打破される組合せでは、両方の対立遺伝子から発現していた。インプリント遺伝子は、エピジェネティックに制御される遺伝子であることから、生殖的隔離のある組合せでは、両親の対立遺伝子特異的なエピジェネティックな制御機構の乱れが引き起こされていると想定される。 加えて、栽培イネと野生イネ、それぞれの種においてインプリント遺伝子を網羅的に同定し、比較したところ、2つの種は近縁な種であるにも関わらず、インプリント遺伝子の保存性は極めて低いことを明らかにした。これらの結果から、エピゲノムの進化速度は、ゲノムよりも早いことが示唆された。2つの種間では、エピジェネティックな制御機構(エピゲノム)に大きな差異が存在することが示唆され、そのエピゲノムの種間差によってインプリント遺伝子を含む遺伝子の制御が乱れ、胚乳発生の生殖的隔離を引き起こす原因になっている可能性が想定される。
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