本研究は地層処分場周辺に生じるpH勾配に起因する過飽和ケイ酸の析出現象に着目し,その動的挙動を明らかにするとともに,流路の閉塞効果を見積もることを目的とした. まずバッチ試験として,固相試料に岩盤亀裂を想定した非晶質シリカを用いて,過飽和ケイ酸の析出挙動を評価した.パラメータとして,想定流路幅(固液比),初期過飽和濃度,温度,pH(8~10),溶存イオン(Naイオン,Caイオン)を設定した.その結果,それぞれのパラメータの依存性を系統的に整理することができ,特に,温度,Na,Caイオン濃度が高いほど,析出速度は有意に増加し,本研究で設定した範囲において,2~3倍程度の変化を示した.ただし,pHについてはpH 8~10の範囲において,析出速度定数に対して依存性が得られなかった. また,埋戻し材内のベントナイトへの過飽和ケイ酸の析出を想定したバッチ試験を行い,pHへの依存性について実験により評価を行った.その結果,pHに対する依存性は,固相試料として非晶質シリカを使用した場合と比較して,pHに依存して析出速度が増加する傾向が示された. さらに,実験結果から得られた見かけの析出速度定数を用いて,岩盤亀裂の閉塞過程の数学モデルを作成し,数値解析を行った.その結果,初期過飽和濃度1 mM,流速5 m/yearにおいて,およそ2000年間で流路幅の約90%が閉塞することが示され,析出の範囲も地下水の流れ方向に対して3 m以内に収まることが示された. 本研究から地層処分場周辺における過飽和ケイ酸の析出が安全評価上重要な期間において核種閉じ込めの効果を発現する可能性が示唆された.今後,本研究から得られた知見を活かし,流動式の実験を行うことや処分システム全体を考慮したシミュレーションを行うことによって,過飽和ケイ酸の析出による核種閉じ込め効果を考慮した最適なレイアウトを提示できる基礎を築いた.
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