研究課題/領域番号 |
16J02633
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
永田 麻梨子 九州大学, 生物資源環境科学府, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
|
キーワード | 超好熱性 / アーキア / 極限環境生物 / DNA複製 / DNA修復 / 複製フォーク / ポリメラーゼ / ヘリカーゼ |
研究実績の概要 |
アーキアのDNA複製中に二本鎖を開裂するヘリカーゼ複合体の構造と機能の分子機構を明らかにするために、超好熱性アーキアThermococcus kodakarensisを用いて解析を進めている。T. kodakarensisには2つのCdc45/RecJホモログが存在しており(GANとHAN)、H29年度は、GANはCMG複合体の一員として複製フォークの進行に関与していると考えられる一方で、HANはHefとともに停止した複製フォークの修復を担うのではないかと考えられる生化学的・遺伝学的な研究成果をまとめて発表した。現在長鎖二本鎖DNAに対するCMG複合体のヘリカーゼ活性の速度の定量を進めている。T. kodakarensisにはファミリーBのDNAポリメラーゼ(PolB)の他に、アーキア独自にみられるファミリーDのDNAポリメラーゼ(PolD)が存在している。ヘリカーゼの後ろを2つのDNAポリメラーゼ(PolBとPolD)を進行させて、そのDNA伸長産物からヘリカーゼの速度を解析している。その際にPolDがGINSと強く結合することを用いて、MCMとGINSを介して繋がっているポリメラーゼ(PolD)とそうでないもの(PolB)を比べて解析している。各ポリメラーゼのDNA伸長活性を調べると、DNA複製・修復などの遺伝情報維持機構に広くはたらくRPAがPolDのDNA伸長活性を促進することを明らかにした。さらに、PolDの結合したGINSはMCMのATPase活性をGINS単独時に比べてより促進した。一方PolBはRPAによるDNA伸長活性の促進はみられなかった。polBはT. kodakarensisにおいて遺伝子破壊が可能である。したがってPolBはおもにDNA修復機構の下流で働くと考えられる。アーキアのDNA修復機構の理解のために、EndoMSなどの複数のDNA修復関連因子の遺伝子欠失株からpolB遺伝子を欠失させ、それら変異株の表現型や周辺遺伝子の発現量を調べた。現在もその実験は進行中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書で計画した本年度の研究計画を達成している。具体的には、まず GANとHANに関する研究成果をまとめて、それぞれについて学会発表、論文発表を行なった。GANについてはH28年度までの研究成果をまとめた。HANについては、生化学的解析と遺伝学的解析を進めた。in vitroにおいて、複製フォーク構造のDNAに対するHANのヌクレアーゼ活性はHefにより促進される一方で、Hefのヌクレアーゼ活性はHANにより抑制されることがわかった。また、Hef、HANそれぞれの遺伝子欠失株(ΔhefとΔhan)の表現型を調べると、Δhef株がUV、MMC、高温に対する高感受性を示し、Δhan株のそれらに対する感受性は弱かったものの、親株に比べて優位な差が観察された。さらに、GANとHANの二重欠失株(ΔganΔhan)を単離すると、ΔganΔhan株は高温感受性であるΔgan株よりもさらに強い温度感受性を示した。 また、PolBもPolDも一本鎖DNA結合タンパク質であるRPAと物理的に相互作用し、両者のDNA伸長活性のときにRPAを入れるとPolDの伸長活性のみを促進するとわかった。この研究成果について論文投稿準備中である。さらに、H29年度は複製ヘリカーゼ複合体による二本鎖DNAの解離速度を正確に測定できる実験系を構築した。T. kodakarensisにおいて、GINSもGANの結合したGINSも同程度にMCMのヘリカーゼ活性を促進するが、PolDの結合したGINSは、GINS単独時よりさらにMCMのATPase活性を促進した。その活性促進は長鎖(約3 kb)のDNA基質を用いた際にもあらわれた。PolDもGANも、GINSにおけるサブユニットであるGins51のC末端側のドメインと強く結合することがわかっており、PolDとGANがヘリカーゼにどのように寄与していくのか、速度の定量に向けた実験の進展が期待できる。
|
今後の研究の推進方策 |
ヘリカーゼの速度の定量に向けた実験データを蓄積している。今後研究成果を順次、迅速に論文にして行く必要がある。また、これらの研究成果を応用した新技術開発に発展できる糸口をつかみたい。
|