研究課題/領域番号 |
16J02664
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
三浦 達彦 東京大学, 大学院数理科学研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
|
キーワード | ナヴィエ・ストークス方程式 / 薄膜領域 / 特異極限 / 動く曲面 / 表面流 |
研究実績の概要 |
今年度は2次元の動く閉曲面に退化する3次元薄膜領域上の非圧縮ナヴィエ・ストークス方程式について、薄膜領域が閉曲面に退化する際の退化曲面上の特異極限方程式(以下、極限方程式と呼ぶ)の導出とその考察を行った。 1.極限方程式の導出:幅一定の動く薄膜領域上でナヴィエ境界条件(領域の内外で流体の出入りがなく、領域の境界と流体との間に摩擦力が働かないという条件)を課したナヴィエ・ストークス方程式を考え、膜の厚さがゼロに近づき領域が曲面に退化する際の極限方程式を形式的な計算により導出した。極限方程式導出に関しては変数変換により薄膜領域の幅を固定してパラメータに関する特異性を持つ方程式を考察することが一般的であるが、本研究で扱う退化集合は動く曲面であるため変数変換の方法は計算が著しく複雑になる。そこで今回は薄膜領域上の方程式を退化曲面からの距離関数で展開し、その主要部を決定することで極限方程式を導出した。同じ方法で薄膜領域上の流体に対するエネルギー保存則から退化曲面上の流体に対するエネルギー保存則を導出した。この方法は形式的ではあるが計算が容易であり、退化集合が複雑な形状を持つ薄膜領域上の様々な方程式に応用可能であると予想される。 2.極限方程式に対する考察:薄膜領域上の流体に対する非圧縮条件の特異極限は退化曲面上の流体に対する非圧縮条件となる。また極限方程式における運動量保存則は通常のナヴィエ・ストークス方程式と同じく「慣性項+圧力勾配=粘性項」という形で表現されるが、粘性項はラプラス作用素以外にガウス曲率のような曲面の形状を表す項を持つことが分かった。さらに極限方程式に対応するエネルギー保存則において退化曲面の運動が流体の運動エネルギー変化に寄与することも判明した。上記考察により極限方程式で表される動く曲面上の流体の運動に対する曲面の形状および運動の影響を明らかにすることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究目標は動く曲面に退化する薄膜領域上のナヴィエ・ストークス方程式に対して退化曲面上の特異極限方程式を形式的な手法および厳密な数学理論により導出することであった。結果として数学理論による導出には至らなかったが、形式的な手法により簡潔にかつ物理的解釈の行いやすい形で特異極限方程式および対応するエネルギー方程式を導出することができた。特に、特異極限方程式に対する考察を通じて薄膜領域上の流体運動の特異極限として表される動く曲面上の非圧縮粘性流体の運動に対する退化曲面の形状および運動の影響を明らかにすることができたため、本年度の研究に順調な進展があったと判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
今後はまず厳密な数学理論による動く曲面上の特異極限方程式の導出を目標に研究を進める。具体的には、方程式の弱形式(方程式と試験関数との積の積分により表現される等式)および薄膜領域の膜の厚さに関する積分平均作用素を用い、薄膜領域上の方程式の解に対して領域の膜の厚さがゼロに近づくときの極限の存在を証明してその極限の満たす退化領域上の偏微分方程式を決定することにより特異極限方程式を導出する予定である。また、特異極限方程式の導出を行った後は特異極限方程式の解の存在や一意性、薄膜領域および退化曲面上の流体方程式に対する解の誤差評価などについて考察する。
|