今年度は静止した2次元閉曲面に退化する3次元薄膜領域上のナヴィエ・ストークス(NS)方程式について、膜の厚さゼロ極限に関する特異極限問題の研究を行い閉曲面上の極限方程式を導出した。また本研究の極限方程式と先行研究で導出された極限方程式の比較を行った。 1.特異極限問題の研究:3次元空間内に与えられた2次元閉曲面(極限曲面)に対し、極限曲面上の十分小さな関数のグラフとして表される2つの閉曲面の間の領域として定義される薄膜領域上で「流体が領域の内外に出入りせず、境界上で摩擦力を受けながら滑る」という(ナヴィエの)滑り境界条件を課したNS方程式を考える。ただし境界条件としては摩擦力のない完全滑り境界条件も含む。このとき、薄膜方程式の解に対して膜の厚さ方向への積分平均を考え、膜の厚さゼロの極限で解の積分平均が極限曲面上の適切な関数空間内で収束し、極限関数が極限方程式の唯一の解であることを示すことによって極限曲面上の極限方程式を数学的に厳密に導出した。さらに、薄膜領域の膜の厚さが一定で薄膜NS方程式に摩擦力のない完全滑り境界条件を課す場合、本研究で導出した極限方程式は曲面上のNS方程式となることを示した。曲面上のNS方程式を薄膜極限により数学的に厳密に導出したのは本研究が最初の結果である。 2.先行研究で導出された極限方程式との比較:Temam-Ziane (1997)は2次元単位球面に退化する薄い球殻上で「流体が領域の内外に出入りせず、速度場の回転が境界上で法線方向に平行である」というホッジ境界条件の下でNS方程式を考え単位球面上の極限方程式を導出した。本研究ではこの極限方程式と本研究で完全滑り境界条件の下で導出した極限方程式を比較し、その構造に大きな変化が現れることやその違いが薄膜NS方程式に課す境界条件の違いと薄膜領域の境界の曲率がゼロでないことに起因することを発見した。
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