本年度は表層型ガスハイドレートが発達する日本海東縁,深層型ガスハイドレートが発達するニュージーランドヒクランギ沈み込み帯,ガスハイドレートの発達しないスンダ海溝で採取した深海掘削コアを対象に,間隙水溶存ヨウ素濃度と,ヨウ素同位体比(129I/I)を測定した.放射性ヨウ素が1250万年の長半減期を持つことを利用し,同位体比からヨウ素年代を算出し,間隙水溶存メタンの起源や移動経路を明らかにし,ガスハイドレートの形成に関わる間隙水の役割を考察した. 日本海では古い流体が海底直下まで上昇していることが明らかとなり,古い流体はガスチムニー構造と呼ばれるメタンガスを多く含んだ流体を運ぶ効率的な供給通路を通じて運ばれており,ガスチムニー内にはガスハイドレートが発達しやすい環境となっていることを明らかにした.ヒクランギ沖は日本海東縁よりもやや弱いメタンフラックスであったが,海底直下まで付加体に由来する古い流体が運ばれてきており,この流体はデコルマなどの断層を通じて古い流体が上昇してきていることを示す.またガスハイドレート含有層と非含有層で同様のヨウ素年代が示されたことから,付加体に由来する,高い濃度のヨウ素やメタンを含む間隙水が,断層を通じて多量に供給されているため,安定領域内であれば,ガスハイドレートが容易に形成される環境であることが示唆される.スマトラ沖では,ガスチムニーや断層などの特殊な流体の経路が発達しない代わりに,透水性の高い砂層が発達する深度でのみ,古いヨウ素年代がみられ,砂層に沿って起源の異なる流体が流入していることが示された.それ以外の深度では,浅部(若い)のヨウ素と深部(古い)ヨウ素が混合した結果,浅部に向かってヨウ素の年代が若くなる傾向がみられた.メタンフラックスは低く,安定領域内であってもガスハイドレートが形成できるほどのメタンが存在しない環境であることが示唆される.
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