方法論の開発に関して、昨年度検討したもののほかに歯のエナメル質に食物との接触によって生じるマイクロウェアを死亡季節推定の指標として用いる手法も新たに検討した。主要観察対象となる更新世のノウサギの下顎切歯化石の切縁部の多くは、堆積物中の酸によるダメージが認められたため、まず試料として国立科学博物館に収蔵されている保存状態の良好な更新世のヤベオオツノジカやニホンザルの歯化石を選び、歯科用シリコーンによって歯の表面のマイクロウェアの印象を採取し、共焦点レーザー顕微鏡で観察した。 観察を進めるなかで、印象材によってマイクロウェアの印象採取精度が大きく異なることが判明し、研究を進めていく上で、どの材料を選択すべきなのか、また、その材料はどんな物性を持つものなのか、を明らかにする必要が生じた。 この課題の解決に向け、国内外の歯科用シリコーン9つについて、上述の試料を使って、実物とシリコーン印象型でのマイクロウェアにどれほどの違いが生じるのか定量的に検討した。それと並行して、シリコーン自体の物性を定量的に評価し、マイクロウェアの印象精度との関係を解明するために、動的粘弾性と硬化収縮率の測定も実施した。 検討の結果、主剤と硬化剤を混和してから急速に収縮が進んでしまうシリコーンはマイクロウェアの印象を正確に採取できない傾向が確認された。また、硬化が遅いシリコーンも同様に印象を正確に採取できない傾向にあった。 こうした検討から、先行研究によって多用されてきた国外産のシリコーンに代替可能な国内産の製品として今回検討した中からは2つの製品があげられることを示した。これに加え、これらの製品以外についても代替品を選択するための重要な指標となる歯科用シリコーンの収縮率と粘弾性という物性の経時変化を初めて定量的に示すことができた。
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